青森県八戸市・味小径「千陽」 今、自分が青森で3本指に入る店だと思うのは、このお店です。

19/02/2010青森,東北,よるどき

青森県八戸市鮫町。
その地名を耳にすると、「鮫」の部分でインパクトを受ける地名だが、記憶に印象を残してくれるのは地名だけではない。
鮫駅を起点に辺りを食べ巡ろうと思えば、JR八戸線の線路に面したこじんまりとした温かいお店があり、ちょっと海岸線に沿って車を走らせたところにある、隠れ家的なイタリアンのお店もある。
展望台の駐車場にあるソフトクリームのお店もあれば、自分は未食なものの、太平洋が一望できる爽快なカフェもある。
というぐらいに、とにかく鮫エリアは旨い。ただ、一つだけ悩ましかったのが、夜の帳が降りる時間に車を走らせても、開いているお店がほとんど見あたらなかったこと。
そんなとき、鮫エリアを中心に熱く旨い物を紹介するこちらのブログを書かれている方とお会いすることになり、その場所として指定されたのが、いかにも公的施設な印象しか持ってなかった、八戸水産科学館・「マリエント」
だから、それまでは施設に対してこれっぽちも興味を持つこともなかったのだが、エレベーターで4階に上がり「千陽」の扉を開けてから10分後、自分の手の平がひっくり返り、目から鱗が顔からほっぺがポトポトと落ちた。


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最初に運ばれてきた鱈のとも和えと、キクのポン酢和えの表情からは、店のロケーションから感じた負の印象をまったく感じなかった。
鱈のとも和えは内臓と身を和えるゆえ、鮮度がいい鱈を使い丁寧が下処理がないと、独特な臭いが気になってしまう料理。しかし、ここの「鱈とも」はそういった負の要素は皆無。郷土食という言葉が感じさせる重たさの面が持つ印象を払拭し、食材の味をしっかりと引き出した調理で、高いレベルの味に昇華させる。
そんな新鮮な鱈を使っているからこそ、キク(鱈の白子)の張りも違う。ぐちゃっと重たい口当たりにならず、ちょっと歯を当てると白子のとろっとした旨みがあふれ出し、舌を白く染める。
最初の料理の時点で、「どんな料理が出てくるんだろう!?」と、胸が高鳴る。久しぶりに味わう感覚だ。そんな中で、運ばれてきたイカ刺しを見て「!!」となった。
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大皿に盛られた豪快なイカの上に、艶々のぶつ切りになったゲソとワタが和えられた姿。瑞々しさが部屋の空気に伝わってくる中でこれを見てしまったら、「旨そう!」としか頭に浮かばない。
さっそく一口。張りがある身を噛むと甘さがしっとりと広がり、そこにワタのコクとゲソの弾力が組み合わさるという、イカの醍醐味を丸ごと感じさせる一品。そんな仕事が大胆な姿で展開されている皿と出会ってしまえば、誰だって嬉しくなるに決まってる。
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そして、口溶けのいいマグロ。単純に、ロケーションゆえに八戸で魚を食べるときは、やっぱり高い期待値を持って望んでしまうが、そんなちっぽけなハードルを楽に越えていく。ホタテも貝柱一本一本の繊維に強さがあり、ぐちゃぁとなってしまう貝柱とは真逆の立ち姿。当然、甘くてたまらない。
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ちょっと厚めに切られた黒ソイも、柑橘類で味が化ける。都内で魚を食べるときには、普通に感じていたこういった仕事が、青森では意外とおろそかになっていると思うこともあり、あって欲しいものがあると「レベルが違う」と、うなってしまう。
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コリコリのあわびは、肝和えで。独特の香りが広がって、引き締まった身からはじんわりと、旨みが惜しみなく、止めどなく出てくる。
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生魚が続いた後は、煮タコ。ところがこれがすごい!
ふわふわに感じるほどに柔らかく煮込まれていて、ぐにゅっとした弾力がほとんどなく、すっとかみ切れてしまう。そんな食感に驚いた後は、あっさり薄味と絡んだタコの旨みとの融合に二度目の驚き。ちなみに、この日の集まりで、一番先にテーブルから姿を消したのは実はこの一品だった。
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そして、次に運ばれてきたのは、なんと芋棒!!京都では定番の鱈料理が八戸で食べられるという、遠距離間食文化の融合が本当にうれしくなる。京都で食べられている芋棒は、「真鱈+エビ芋」の組み合わせだが、ここでは1日干したスケソウタラを使っている。
長期間干した棒鱈が持つ独特の、「ぐしゅぐしゅっ」というちょっと泡立つような食感ではなく、魚の肉質がしっかりと残った鱈から、上品な味があふれ出す一方で、その旨みが芋の表面に絡み、中まで噛みほぐすと、芋本来の味が順番に展開する。
津軽的なちょっと濃い目の味付けではなく、ちょっと薄味の調味なところが、両者の味をしっかりと前に出した一品。これは食卓に毎日欲しくなる。
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そして、〆は鯖出汁のきいた鯖そば。上に盛られている焼き鯖、「もしかしたら、パサパサかもしれない…」と、一瞬思ってしまったが、つゆを飲み、そばをすすって鯖をむがっと頬張ると、ふわっとやわらかくジューシーな脂で満たされる。この3行程の繰り返しがものすごく楽しい。
このお店の板長さんは、京都で修行をされて八戸に戻られた方。食材へのこだわりは徹底し、食材の味を最大限に引き出す技を持ち、そしてプレゼンテーションに迷いがない。
客を五感で楽しませてくれるお店。そう、こういうお店が青森に欲しかった。
ちなみに、夜の営業は基本的に事前の予約が必須。そして、中心市街地でも再び(元々、このお店は中心市街地で営業していた)夜の営業を始めるとのこと。とにかく、見逃せない。

著者プロフィール

takapu

ごはんフォトグラファー/Local-Fooddesign代表
食にまつわる各種コンテンツ制作(フォトグラファー、エディター、フードライター、インタビュー)、商品開発・リニューアル提案、PRツール・ロゴ制作などを手掛けます。
創業75年以上の老舗食堂を紹介するウェブサイト百年食堂の制作・運営もしています。
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Posted by takapu