青森県青森市浪岡王余魚沢(かれいざわ)。
元々、青森県には「浪岡町」という自治体があったのだが、
2005年4月1日に青森市との市町村合併によって、
浪岡町という町は消えてしまった。
りんごや米の特産地である、緑豊かなこの地の山間に、
「王余魚沢(かれいざわ)小学校」という学校がある。
平成16年の休校をもって、学校としての役割は終えたものの、
NPOの支援組織であるあおもりNPOサポートセンターや、
文化振興や社会貢献を目的とした、
ソーシャルエンタープライズ(社会的企業)tecoLLCによって、
学び舎には再び命が吹き込まれ、
今では、この地においてアーティスト・イン・レジデンスの
プログラムが実施されている。
そんな学び舎の一角に最近、一つの小屋が完成した。
その名を「王余魚沢倶楽部」というこの建物は、
旧王余魚沢小学校の物置小屋を、リノベーションしたカフェ。
とはいえ、そんな印象は全くなく、校庭の一角に現れたその姿は、
さしずめ新しい学び舎。
そういえば、自分も学校の敷地に新しい建物ができると、
それが体育道具を入れる小屋であっても、
なぜかすごくワクワクした覚えがある。
ガラスとダークブラウンの木材をふんだんに用い、
中を白い漆喰壁で囲った建物なので、開放的で暖かみがある内装。
しかも風通しもいいので、眩しい日差しが照らす校庭から、
ヒバのチップがたっぷり敷かれたエントランスを通じて中に入ると、
五感と握手するような心地よさが、全身をやさしく包み込む。
テーブルとクッションでできたいくつかのエリアは、
同じものがなく、どの場所で食べるかによって、
まったく別の印象になることは間違いない。
その一角には、アーティスト・イン・レジデンスで、
王余魚沢に滞在している方の作品が紹介された媒体や、
関連するイベントのカタログが置かれていたり、
お店に携わる方のセレクトによる、
アーティスティックなアイテムが展示販売されている。
天井が高く心地よい建物の中なので、
丸ちゃぶ台の空間に腰を落ち着けてしまおうとも思ったのだが、
幸いなことにテラス席が空いていたので、
そこで料理を食べることにした。
靴を脱いで、小学校のスリッパに履き替えると、
気分はなんとなくPTAだ。
ウッドテラスにはソファー席や、
クッションとテーブルの席が3組分。
カフェのテーブルなどの家具には、
小学校の備品やりんご箱を再利用しているものもあるので、
ちょっとした野外教室といった趣がある。
右側のブロック塀越しには、プールの姿。
自分は水の中を見なかったものの、
どうやら大きな魚がいる模様。
カフェのメニューは、テーブルに置かれている1枚の紙。
もちろん、メインの王余魚沢カレーセットを注文。
大きな鶏肉がたっぷりごろんと盛られた
バターチキンカレーに、
色鮮やかな野菜のピクルス。
トマトの酸味と甘みに香り豊かなスパイスを融合させ、
動物性の旨味をかけ算したカレーは、
やわらかい辛さの刺激と、肉や野菜の存在感との波長が整った一品。
そんな美味しい一皿を更に際立てるのが、
グラスに入ったピクルス。
パプリカやトマトの自然が与えてくれた恵みの色が、
緑に囲まれた空間で食べる喜びを増してくれる。
そして、セットのドリンクは浪岡アップルサイダーのオンザロック。
ホットで美味しいりんごジュースという軸があるからこそ、
強い香りを出す濃厚な味がキンキンに冷やされても、全く水っぽくなく、
りんごの郷・浪岡を象徴する味の記憶を残してくれる。
木製のトレーに掘られたカフェのロゴマークは、
鰈をくわえた犬の姿。
地名の由来の一つに魚の鰈があるらしく、
それをモチーフにしている。
一気に駆け抜けるようにカレーを食べた後、
まだお腹に余裕があったので、
日直おすすめのスイーツから、
クリームチーズケーキを食べることに。
これがとにかく濃厚で重厚な一品。
ジャム工房otteで作られている
ブルーベリージャムの無垢な味が、
チーズのコクに爽やかな甘さを加える。
食後のテラス席、既にお客さんは席を立ったが、
残された食器が「また来るよ!」と物語っている。
今、浪岡の地で育まれている素敵な宝物が、すべて揃ったこのお店。
空港から近いこともあって、青森に来たらここは欠かせない。
そして、新しい浪岡の歴史に携わるお客さんが、
一人でも多くなることを願わずにいられない。