弘前駅に到着して真っ先にしたのはあるお店への連絡。
実は7月にこのお店を訪れて、ある逸品を口にしたかったものの、目の前のお客さんで売り切れという、苦い経験があったのだ。
ということで、それを取り置いてもらってからタクシーで向かったのが、三忠食堂というお店。行き先を告げると、タクシーの運転手さんから「お~、オレ、三忠のオヤジさんと知り合いなんだよ。じゃぁ、オレもちょっと顔を出していくよ。」という一言。
自分の平日の本拠地である東京や、自分が住んでいる神奈川で、ここまで熱く地元のお店のことを話すタクシーの運転手さんに会ったことがなく、妙にうれしくなった。
ワンメーター程度走って、お店に到着。すると運転手さんは本当に店内に入って、挨拶をしてから戻ってきた。
店内に入ると、外観とまったく同じノスタルジックな雰囲気を持ったテーブルやイス。座布団が敷かれているのが魅力的。まるで時代を遡った自宅に戻ってきたかのような居心地のよさ。
で、取り置きをしてもらった電話の相手であるご主人が出てきたのだが、なんと、2ヶ月前の自分の姿を覚えていてくださっていたようで、「あーあー!」となった。正直、かなりうれしい。
ということで、いよいよ2ヶ月越しの津軽そばが目の前に。
透明感に満ちたつゆ。ネギとノリ、そしてナルトだけのシンプルな具。それだけで十二分に魅力があるからこその潔さ。
このお店の津軽そばの特長は、打ちたて茹でたてのお蕎麦ではなく、寝かせたそばがきに大豆を練りこんだものをそばに仕立て、茹でたおそばをさらに寝かしたものに、焼き干しのダシを効かせたつゆを合わせたものである。
箸で引き上げると、伝わってくるものが違う。麺の弾力による重さを感じるより、むしろ違和感によって生まれた不思議な軽さのようなものを感じる。
そして、ずずっとすする。唇に当たる表面の感触は、粉のザラつき感ではなく、まるで鑢がかけられたかのようになめらかで、噛んで感じるのが独特の食感。そば全体でプリっと強いハリを作っているのではなく、どちらかというと「モチモチ」に近い感覚。とにかく、そばのイメージが変わる。
つゆを飲むと、舌を通じて焼き干しのダシの優しい旨みが身体中に染み渡る。ダシの旨みに醤油が重なった、本当の意味での調味がなされたこのつゆは、色々な意味で温かい。青森のラーメンといいこの津軽そばといい、ダシの旨みが重んじられているのが嬉しい。
こうなると、あとはすすって飲んでの繰り返し。そして、最後まで飲み干す。これは、飾られたりして生み出されたソウルフードなんかではなく、この地方に根付いているからこその味。2ヶ月越しの味は、逆に2ヶ月待ってよかったと思えた味だった。