【海坊厨/青森県青森市】ランチタイムに教えてくれる「料理を創る」ということ。
アウガから少し先、駅前からすぐの市場街。自分が青森に住んでいた時は3つあった市場の一角・青森公益魚菜市場が再開発のために取り壊されて更地に(2022年現在、高層マンションが建っています)。
その目の前にある深緑のお店が、海坊厨。
数年前に移転開業する前、青森での職場から歩いてすぐの場所にあったこの店。ねぶた囃子が似合う暑い日も街が白く包まれる寒い日も、気がつけばカウンターやテーブル席で日替わりランチや海鮮パスタを食べていたものです。
この日はGWの土曜日ということもあって日替わりランチはお休み。それでも住んでいたなら日替わりでいただきたくなるパスタのラインナップ。元々グランドメニューが豊富なお店ですが、「さすが!」という感じになります。
メニューデザインが変わってシズル感のある写真たっぷりの表面。裏面には自分もお世話になった名物のオムライスも健在です。
そして、もう一つの名物であるスイーツメニュー。
ちょっと遅めの時間に入ったこともあって、隣のテーブルでは市内のマダムさんご一行といった感じのグループが、珈琲とともにスイーツも楽しんでいました。
食べたいものばかりで困ってしまいます。数年前の美味しさに会いたい気持ちと、食べたことがない味に出会いたい気持ち。どちらかを振り切らないといけないのですが、やっぱり迷うものです。
でもここは初志貫徹。「魚介のふきのとう入りバーニャカウダソース」パスタに、食後のスイーツとして焦がしきな粉のロールケーキを注文しました。
まずは、スープとサラダから。コンソメに浮かぶたっぷりの布海苔、香りとコリコリの食感で青森らしいお出迎えをいただきました。
こちらは炙り海鮮丼。同じテーブルに運ばれてきたので撮影権だけいただきつつ、このボリュームに魅力を感じざるをえません。
そしてお待ちかねのパスタ。熱々の湯気に乗って立ち上る芳醇な香りに導かれていただきます。ふきのとうのほんのりした苦味と、ニンニクのコクとの組み合わせが、パスタに絡んだこの味がたまりません。
そういえばニンニク生産量日本一の青森とバーニャカウダのイメージは、もっと結びついていいはずなのに、意外なほどにリンクしないもの。同じ生産量日本一のりんごやごぼうの加工品と比べれば、ソースがボトリングされて商品化されているものも見たこともありません。もったいないなぁと思うものです。
濃厚な中に春の息吹を感じさせるソースに絡む具材は、あさりやエビといった定番系に混じって、自分の一番心を揺さぶったイカトンビ。つまり、イカの口端部分なのですが、この一皿作るのに何杯のイカを使ったのか。
想像もつかない分量と想像以上の弾力の楽しさ。あっという間に…いや、このお店のボリュームは見た目以上にすごいので、お皿が空になるまでには少し時間がかかりました。
腹8分の言葉に謝りつつ、デザートが運ばれてくるのを待つ間に、食後の珈琲をはさみます。昼休みの1時間でここに来ていた時は、珈琲を飲んでお店を後にすることばかりだったので、デザートが来たときの別腹感は、一層の贅沢感を覚えます。
まずは、同じテーブルに運ばれてきたティラミス軍艦。海苔の形に整形したチョコレートの中に、マスカルポーネと小豆や甘納豆といった和系食材がたっぷり。まぁ…撮影権だけしか持ってないのですが(笑)。
で、こちらが焦がしきな粉のロールケーキ。スポンジとクリームにきな粉が入り、薄く伸ばした求肥で境界線ができています。
フォークで一口大にして口に運べば、あっさり系の甘さと香ばしさがふわり。求肥のモチモチした食感が口の中でケーキが過ごす時間を伸ばしてくれるので、クリームたっぷり系のロールケーキよりも、余韻や後味がしっかり楽しめます。
いちごの酸味をはさみながら、丁寧な飴細工の甘さを口しながら。最後の一口まで堪能させていただきました。
このお店が好きな理由は、シェフの飽くなき探究心。
店名に創作と掲げるのは一つの勇気だと思うんです。創作は歩みを止めると、時代の流れから取り残されてしまうもの。だから、普遍的な軸を持ったままで面積を広げて高さと深さを生み出しつづける必要があります。
きっと、無意識にそんなインスパイアを受けていたので、自分も駅弁だったりドリンクだったりの、青森土産を生み出せたんだろうと。
そう考えれば、今の自分を作ってくれたお店の一つ。街の姿は変わっても、お店の姿が変わっても。その思いは変わりません。