【青森県大鰐町】『八木橋餅店』の名前のない一本のお団子
上野発の寝台特急「あけぼの」に乗って、車窓に映し出される日本海の荒々しさを眺めつつ、時計の針が翌日の午前9時を指した頃に到着するのが青森県大鰐町。
特急を降りて大鰐温泉駅を出たら、町のメインストリート・手古奈通りを東京方面へと進む。すると、町の真ん中を流れる平川が広がっている。京都のように夏の夜には川床をしてのんびりと過ごしたくなる場所だ。
そんな川を渡って少し先に進み、身体を左側に向けると一軒のお店が視界に入ってくる。その佇まいは町に欠かせない存在であり、その存在が町の顔となっているかのようだ。
そんな八木橋餅店は「もちの店」。地元の方曰く、仏様に供えるためのお餅菓子を売っている店なので、和菓子屋さんとは存在の理由が違うとのこと。
お店に入ると商品ケースにはもちパイやしとぎもち、そして甘い津軽のいなりずしといったもち米を使った商品はもちろん、ようかんなんかも並んでいる。
そんなケースの中に一箇所だけ空白地帯が。どうやら、ここにこのお店の宝があるらしい。
その宝の正体は一本のお団子。串が長いとか三色の餅が刺さっているとかではなく、見たまんまの素朴なお団子。見た目は醤油のみたらし団子だが、一口頬張ると濃厚な黒糖の甘さが上品に広がる。
どうやらこれは青森でいうところの「みつかけ」というらしい。ただ、お店の方は「名前はない」という。これで70円。蜜を作ったり串に餅を刺したりする手間を考えると、気前が良すぎて申し訳なくなる。ただ、子どもが親しみを込めて「一本くださーい!」と商品ケース越しに伝えたくなるはず。
そんな一品だから、この味を誰かに伝えたくなる。