青森県弘前市・ゆぱんき Keep in touch.
最勝院五重塔のふもと、大きな黒板の少し先。
緑と落葉の絨毯に囲まれて、
ゆぱんきはこの日も静かに佇んでいました。
木製のドアを開けて店内に入れば、
小さな窓から光が差し込み、
祠のような空間を、
柔らかく包み込んでいます。
書棚にある雑誌や書籍から、
読みたい気分の一冊を探すお客さん、
あるいは、自分が持ち込んだ書籍を、
コーヒー片手に読み込むお客さん。
オーナーがキッチンで料理をしている時、
書棚が代わりにお客さんを優しく見つめていたのだと思います。
青森に住んでいた時や、機会ある度に立ち寄った際には、
コーヒーや甘味を注文することが多かったものの、
でも、この日注文したのはゆぱんき定食。
掛けられた「時間がかかりますがよろしいでしょうか?」
という一言も、丁寧に料理をするお店だからこそ、
逆にそれが嬉しくなります。
運ばれてきたプレートには、
大根の田楽、ブロッコリーのクリーム煮、
炙った蕪に、ひじきの煮物、
そして柿の白和えといった、
丁寧な仕事を経て生まれた彩りの数々。
そして炊込みご飯とおみそ汁。
ホッとする香りが小さなテーブルに広がります。
一口ごとに身体が洗われるような味、
素材の味に厚化粧を施すのではなく、
薄化粧で素材の味を魅せる味は、
居心地の良さと相まって、
いつまでも食べ続けていたいものでした。
そんな至福の時間のBGMは、
優しく流れる音楽とコーヒー豆を挽く音。
ここで飲むコーヒーには、愛くるしいカタチのクッキーと、
手作りのスタンプが押された紙に包まれた、
角砂糖が添えられています。
ゆっくり、ゆっくりと豆の香りを全身に行き渡らせつつ、
プチプチした食感のクッキーを、
どこから食べようか迷いながらつまみ、
小さなテーブルに差し込む光と窓越しの川を眺めながら、
決して過ぎて欲しくない時間を過ごしたのです。
そんな自分にとってかけがえのないお店が、
一旦長期休業に入られるとのこと。
丁寧な仕事と思いが詰まった料理、
そして黒猫の看板に会える日まで、しばしのお別れ。
でも、この日食べた柿の白和えの味は、
おそらく一生忘れられません。
また、細い路地を通ってドアを開ける日を、
楽しみにしています。