神田・味坊 続・羊たちで沈黙
このお店の羊串の旨さを知ったのは数週間前。
あまりにも強烈な第一印象に引き寄せられて、
ある日の晩、気がついたら神田のガード下にいました。
まずは、羊タンの冷製から。
牛タンと比べて全体にしっとり柔らかく、
上品に滲み出る旨味は独特なものです。
次に干豆腐の薫製。
シート状の干豆腐を大胆に燻製にしたものですが、
ミルフィーユ状になったことで、
クミクミした独特の食感が一層強調され、
一口ごとに香りが口内を包みます。
そして、絶対エースは羊串。
厨房から立ち上る煙で生まれる、
クミンの香りと唐辛子の刺激にリードされた豊富な肉汁。
何本食べても飽きがきません。
締めは、漬け白菜の炒め物。
チュルチュルと流れるように吸い込まれる板春雨と、
いい塩梅に味わいの増した白菜の食感。
醤油と漬け白菜との発酵コンビネーションに、
ニンニクも効いてるとなれば、ご飯が恋しくなります。
このお店に惚れた理由は旨さもさることながら、
中国東北料理という、未知なる地域の料理に対する興味です。
例えば、日本のとある地域の料理が海外で味わえるとして、
自分がその国に住んでいる人だとしたら、
食べたいものはやっぱり、本当にその地域で食べているもの。
つまり、リアルです。
ローカライズが極限まで小さくなることで、
初めて背景まで含めて共感される料理になるんだろうと。
闇雲に食材や食文化を輸出するのではなく、
このお店のように料理の芯をしっかり保ったままで提供することで、
初めて人間の基礎欲求に応えることができる。
無意識のうちに、そんなことを一皿一皿から教わってるんでしょうね。