【パンとカフェ】江古田という街が、これほど食べ歩きに楽しい街だとは知りませんでした

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不思議と一人歩きをするには難しそうな街だったので敬遠気味だった街、江古田。

しかし、知人2名が実はこの界隈に在住していることが判明したので、無理言って江古田ビギナーの自分を案内していただくことに。

駅前の「広場」に集合したのが午前11:30。まずは駅前を案内していただくことに。すると、こんな昭和スタイルな飲み屋さんを発見。

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コンパという単語をここまでダイレクトに店名に使うお店は初めてだ。グランドキャバレー的な外観に誘われて、近づいてみると…
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まるで、プロレスラーのようなカクテルの表示、なぜか、斜めになっているウイス「キ」ーの文字、そして、ところどころ抜けている文字。

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しかも、カクテル教室も展開中。一人客の女性ならずとも、人生で一度は足を運ぶ意味がありそうなお店である。

この日の目的はカフェとパンの2本立て。

事前に色々とお店情報を送ってもらったのだが、パンの縦横マトリックスが一杯になってしまうぐらいに、とにかく豊富な店の数と種類。カフェも今モダンと昭和モダンが、同じ街に同居している喜ばしい環境。降ったり止んだりの雨に傘の動きが慌しくなる中、最初に到着したのはドラゴーネというパン屋さん。

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このお店は、一箇所のパン工房でパンを製造し、練馬区内や中野区に点在するお店で販売するというシステム。店の幅は小さいものの、壁面一杯に30種類ぐらいのパンが陳列されていた。ここで自分が気になったのは、壁面から離れた場所に置かれていた、

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このクリームパン。
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そして菊川玲が、「おめざ」として紹介したらしいチーズケーキ。ということで、これを購入。

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クリームパンの袋を開いた瞬間に広がるのは芳醇な酵母の香り。

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この印象がしっかり残りつつ、クリームの甘さと生地のほのかな甘みへと変化。まるでプリンを食べているかのような余韻が残ります。

早速のパン仕入れを済ませた後は、お目当てのカフェ1軒目である“PEACE”。

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元々、イタリアンのお店でシェフとして活躍されていた方が、江古田の地にてカフェを始めたのが去年のこと。案内役の方にとっても、このお店はイタリアン的な位置づけなのだとか。

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店内はイタリアン的というよりこれぞカフェといった、洗練とオーナーのセンスにより構成された空間になっている。ということでランチタイム。メニューを見ると気になる単語が。

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昔懐かしの言葉に弱いのでナポリタンはもちろん、フレッシュトマトとモッツァレラチーズのパスタ、そしてルッコラのピザを注文。

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フレッシュトマトのパスタは、トマトの酸味が効いたソースにまろやかなチーズのコクが絡む、ベーシックゆえに判りやすく、単純に旨さを楽しめる一品。

驚いたのがパスタのモチモチとした食感。平打ちの類だと、ビラビラな感触が変に舌の上を駆け巡るだけのパターンもあったりするが、これはパスタがモチモチとした中で軸があるかのように安定感が高く、ソースとの絡まり具合も申し分なし。

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ナポリタンはフレッシュトマトのソースに比べて、甘さとコクが一層深まった味付け。

ケチャップ的なあの味を感じさせつつ、やはり洗練しているなぁと思ったのが、ナポリタンのビジュアルイメージを壊して、自家流ナポリタンに仕立てていること。みんな解釈が同じだと面白味がないものの、ナポリタンらしさも失われてしまう。

でも、この一皿はどちらのバランスもしっかりと取れた、いわばいいところ取りなナポリタン。しっかりと深い旨味を持ったモダナイズドナポリタンは、かなり面白い。

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一番驚いたのがピザ。カフェの先入観だけで食べると、なんとまぁという生地の完成度の高さ。表面はパリっ、中はモチっ。軽すぎず重すぎず、このクラスの生地をカフェで食べるとなるとなかなか見つからない。

正直、ソースがどうだったとか、ルッコラがどんな感じに効いていたか覚えてない。でも、生地のことなら覚えている。それだけ、印象的な仕上がりだった。

カフェの先入観で行ったら、絶対にいい意味で裏切られる。そんなお店を後にして、細い路地を通っていく。

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細い路地から更に間口の狭い路地の先には、こんな感じの民家改装型のカフェも。

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お刺身専門店やドラゴーネの別の支店が入っているビルの奥には、挽きたての豆を提供するお店と、そこが経営しているのであろう、地元のオアシス的な喫茶店があり、

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懐かしのおもちゃ屋さんの店頭では、こんな感じ。誰かの日常空間を歩くことで一番面白いのは、自分の日常空間に無いものを見つけること。この兎の置物もそうだし、

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この交差点を車が行き交う画が気になったり、

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大きなパイロンがあることに驚いたり。

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案内役の歩きなれたペースについて行きつつ、当たり前のような普通の道を歩いていると、目に飛び込んでくるのは、雑穀パンのお店「ひね」。実はこのお店もお目当てのお店だったのだが…

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あいにくの売り切れ。それもそのはず。このお店は開店30分前から列ができあがる人気店。お客さんに対する気持ちを筆に乗せて、真っ直ぐで丁寧な意思表示。だから、地元の方にとっても欠かせないお店になるのだと思う。
地元の方に欠かせないお店といえば、江古田では…

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このお店がそれにあたるらしい。日大芸術学部があったり、武蔵野音大があったり。そんな学生街らしさが伝わってくるお店。メニューを見てみると…

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こんなに豊富な種類を、卒業までに食べきれるのか、妙に心配してしまう。

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お次に向かったのはロクアーチェというパン屋さん。

店内は小さいものの、4段ぐらいの高い棚にぎっしりと詰まっているのは、ブラウンを基調としたシックな装いのパンや、そこに色々な色を足し算したパン、そして20種類近くのラスク。このラスクがとにかくすごい。ベーシックなものから、変化球まで、さしずめラスクミュージアムといった趣。

ということで、ここでは4種類のパンを購入。

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まずはクロッカン。ナッツの上にガラステーブルのごとく覆う砂糖を含めて、全体に香ばしい。見た目よりも食感はやさしく、その裏側に忍ぶのはクルミ、ピーナッツ、そしてカシューナッツによるコクの共演。

焼き上げられることによって、際立った香りが口に広がり、これをデニッシュ生地の強さが包み込む。これらの食感の違いも、味を構成する大きなポイント。

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5種類の豆のパンは、豆に加えて生地の中にくるみがしっかり。

やわらかい豆としっかりしたくるみの食感がコントラストになっている。豆が虹のように織り成す鮮やかなルックスと、そこから生み出される深い味に、くるみのホロ苦さが上手く重なっている。生地の味とクルミの味、そして豆のカラフルな味。これぞ三位一体といった具合。

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チーズのパイは、パイ生地の上に濃厚なチーズがたっぷり。上の2つと違ってシンプルな足し算だからこそチーズの存在感が際立つ一品。

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ラスクからは、メロンパンラスクとココアラスクを選択。

特に秀逸だったのがメロンパンラスク。クッキー生地が焼成されることで、食感くっきりの芳醇な香りを持つ一品に。クッキー生地に包まれたパン生地の軽めの食感との、力強いコントラストも大きな特長。正直これは、あと3袋ばかし買っておきたかった。

次に向かったのは、練馬大根酵母の文字がキラリと光るデンマーク。

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ここも、柔道の無差別級のごとく、ありとあらゆるジャンルのパンが揃うお店。目移りする中で目を引いたのがこの2種類。

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袋を開けると焦がし醤油の香りが広がるさつまいものパン。豪快なボリューム感をその姿から伝えており、フィリングもギッチリと詰まっている。表面のモンブランのごとくな部分は、ペースト感はやや少なめ。一言で言うと、まさに町のパン屋さんな味。

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コーヒークリームパンは、コーヒーの香りを含めて、クリームの味に燻し銀的なものを感じた。大人向けのクリームパンジャンルの一つとして、これはありなのではと思うのと同時に、色々な意味で伸びしろを感じたのも事実。

この他に、事前に案内役の方に「黒ぱんや」というお店で買ってもらったのが、この2種類。

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りんごジャムサンドは、なんといっても生地の味が深い。そこにリンゴの酸味とチーズのコク。シンプルな構成ながら一つ一つが持つ力が強いこその素朴で純粋な味。全粒粉ものに見られがちな「なんとなく遠いところにあるパン」というものではなく、「手の届くところにあるパン」というポジションもうれしい一品。

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3種類のクッキー。その素顔はまったく異なる。

咀嚼するごとに、とうもろこしの粒がプチプチと、口の中ではじけるように心地よい音を鳴らす。これが小麦の生地の甘さとコクに刺激と満足度を与え、味に鋭さを持った刺激のようなコクという、もう一つの顔を作り出すもの。

シリアルのレーズンやアーモンドの野生的な味が、生地を引き締める。生地そのものはサクっと軽いものの、これが入っていることで食べ応えを楽しめるもの。

そして、ジンジャーのほのかな刺激が、生地の甘さの後にふわっとやさしく広がるもの。
そんな、コンビネーションが印象的。

やはり、江古田のパン力はすごい。気取ってないけれど洗練されている。そんな理想的なパン屋さんが数多く揃っている。これは街の魅力を高める上で重要な要素である。

そんな風にして、パンをあれやこれやと買った後、大きな道や細い道、色々な道を歩き回って、駅付近にあるToris Cafeへと向かう。

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店舗用の物件ではなく、住宅を居抜き的に使ったリノベーションなカフェ。なので、江古田という町にも一本の路地裏にも溶け込んだ外観。目の前のドアを開けると、目に飛び込んでくるのは、洒落なツボをしっかりと押さえたインテリア。

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そんなカフェに大人数で入ると、あれやこれやと注文することができる嬉しさがある。

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例えば、とても大きなクレームブリュレやチーズケーキ。

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あるいは、サツマイモの春巻き。

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素材の味がしっかりしていれば、あとはその素材に任せて、素材の味をそのまま出せばいい。

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でも、そこに適切なさじ加減で味付けをすることで味の階層が生まれ、その階層が積み重なればなるほど、味の厚みも増していく。それは、お店の文化が重なることで街の魅力に厚みを生みだす、江古田の街そのものを語るような一品。

不思議な街ながらにして、不思議の理由が妙に納得できる街。そして食べ歩きに楽しく素敵な街。機会があれば、そんな街に身を置いてみたいものである。