【CAFA/神奈川県相模原市】相模湖の湖畔に佇むカフェの、あんバタートーストとオレンジバターハニートースト
青森に住んでいた時は、時間を見つけては青森市内から車を走らせ、黒石や弘前あるいは八戸にあるカフェに通い、淹れたてのコーヒーを飲んだりフードを食べたりして、店の空気に身を預けるのが大好きだった。
いいお店で過ごした時間が快適だったら、たどり着くまでに数時間かかっても帰路の長さを感じない。青森にそういうお店が多かったからこそできた贅沢なドライブ。
相模原に戻ってきてから、そんな気持ちにさせてくれるお店を探していたものの、正直なところなかなか見当たらなかった。良いんだけどそれ以上の感情が芽生えないお店に会うことが多かった。
相模湖方面をドライブしていて豆の看板が目に入った瞬間、頭の中に「おぉ!」という驚きの言葉が占めた。
車の外に出ると、青森でいつも包んでくれたような、心地よい風と緑が出迎えてくれた。でも、まだこの時点では「多分、カフェだよなぁ。というより、カフェであってほしいなぁ。」という期待含みのもの。
そんな店内の入口には、メニューが飾られていた。正解。ドアを開けて中に入ると、出迎えてくれたのはオリーブグリーンの椅子、一目でオーディオ好きだということを伝えるスピーカーやアンプ、そして大きな窓。窓側の席に空きがあったので、さっそく腰かける。
運ばれてきたメニューを見て、ちょっと悩む。コーヒーが飲みたいのは決まっていたのだが、お供が決まらない。どれも一口は食べてみたくなるような一品ばかり。手書きの文字から温もりが伝わってくるメニュー、この感覚がたまらない。
注文を決めて、相模湖を眺めながら待つ。左から右へ遊覧船やレガッタが通過する。ぼーっとしながら、次に何が通るかを心待ちにしながら、コーヒーとお供が出てくるのを心待ちにしていた。
席に運ばれてきたあんバターは、青森で食べたそれとはまったくルックスを異にしたもの。
相性の普遍性とルックスの可能性が融合した姿に感心。手作りの食パンの、表面のサクッとした歯触りから中のモチっとした食感への流れが心地よく、バタートーストとして1枚食べたくなる。
そんな、丁寧に作られたシンプルの上にたっぷりと盛られた、塩味が効いた餡子と余熱で溶けたバター。
餡子が媚を売るような甘さではなく、豆の味がしっかりと感じる味だからこそ、バターのコクと三位一体になった味は、どうすれば忘れられるのか判らなくなるほど印象的。
そして、運ばれてきたコーヒー。雲と青空が映り込む一杯にほっとしながら、ゆっくりと香りを楽しむ。
一方のオレンジバターハニートーストは、まるで蜂蜜がたっぷりと入った蜂の巣のよう。一口だけ食べると、もう…たまらない。次に注文するメニューが早くも決まった。
食後にお店の方に伺ったのは、元々、ここはドライブインだったとか、このコーヒーに出会ったことで、ドライブインからこのお店へと業態が変わったという話。そして、一番印象的だったのが、パンに使っている酵母が、ホシノ酵母の「丹沢」という品種だという話。
このお店の近くにある、丹沢の山林で見つかった品種を使っていることが、自分にとって一番うれしかった。こだわりの源泉が、自分に関与することに近いとやっぱり好きになる。だから、わざわざ行きたくなるし帰りの道も苦にならない。
相模原に単なる「良い」だけじゃないカフェがあることが、こんなに嬉しいとは思わなかった。ベッドタウンに対する諦めみたいなものを持っていたのが本当のところだから。