
20年に一度という言葉が、書店やテレビの中で踊る伊勢神宮。
式年遷宮に関する一連の行事の中で、メインイベントは10月に執り行われる遷御ですが、その前に民間行事として行われるのが「お白石持行事」。
これは、新しく建てられる御正殿の敷地内一面に敷き詰める、「お白石」と呼ばれる白い石を奉献するもの。伊勢市内を流れる宮川で拾い集められた石を、沿道や川を練り進みながら運んでいきます。
本来は、伊勢市内にお住まいの方しか参加できない行事なのですが、今回は縁あって奉献団として参加することができました。 とはいえ、実は伊勢神宮を訪れるのは初めてのこと。今回、内宮に奉献する前に正式な参拝ルートに従って、まずは外宮を訪れることに。

本殿までの参道は、新たに作られた鳥居の香りに包まれて、包み込む緑と共に別世界に誘ってくれます。
たどり着いた正殿の前には大勢の参拝客の姿。ここに祀られているのは、豊受大御神(とようけのおおみかみ)。食物・穀物を司る神ということもあって、背筋をピンと伸ばしてお参りします。
内宮の入口では風にたなびく町会の幟。白石持ち行事は伊勢市内の町会単位で奉献団が結成され、異なった日に石を奉献します。

タクシーで外宮から内宮に向かう道すがら、急に車が動かなくなったのでここからは徒歩で内宮に向かうことに。というところで奉献団と遭遇しました。奉曳車(ほうえいしゃ)に石を詰めた木桶を乗せて、二本の綱で少しずつ引かれて内宮に運ばれています。

この日も陽射しは強く、なかなか動かない石をゆっくりゆっくり運ぶので、体力の消耗度合いは半端じゃありません。なので、沿道からは力水のシャワーで応援したり。街は一つになっています。

今回自分が参加する町内会の奉献団が、合流地点に到着するまで時間があるということで、ちょっと休憩タイム。
へんば餅のお店を訪れました。
1775年に参道沿いでお餅を提供したのを始まりとし、参宮客がこのお店で馬を返していたから「返馬」。というのがお餅の由来なんだそうです。
伊勢の甘味と言えば、無条件で赤福の名前が出てくるところですが、むにっと柔らかいお餅と、上品な甘さの餡の組み合わせ。
しかも、お茶が無料でいただけるのですが、それが旨いんです。ゆえに、店内の座敷から腰がなかなか上がりません。

ここは、奉献団の様子を見るのにも絶好の場所。体力も回復したところで法被を身にまとう時間となりました。

町会単位で異なるのは、奉献の日付だけではなくポスターも。考えてみると、前回のお白石持行事が行われた頃は、まだデジタルカメラ時代ではなくフィルムカメラの全盛期。フィルム独特の厚みや艶、そして発色が当時の迫力を余すところなく伝えてくれます。
今回奉献団として練り歩くのは、おはらい町。観光客の多さに遷宮効果の凄さを感じます。

そして、奉献団の方も足を止めるのがこのファミマ。シンボルカラーが幟にしか残っておらず、パッと見ただけでは何屋さんかわかりません。
大型掲示板でも話題になったこともあって、外観を撮影したり記念撮影したり。いつものコンビニとの接し方とは違う楽しみ方で接していました。

神聖な場所に足を踏み入れるので、服装にもルールが。ということで、白系の服を着て白い靴を履き、法被を身にまとって出発。全身で重さを感じながら、少しずつ太い綱を引き寄せます。
道中では、二手に分かれている引き手が真ん中に寄ったり綱を上下させる「練り」という動きをしたり、木遣(きや)りと呼ばれる歌の「えいや! えいや!」の声が勇ましく響きます。
途中で休憩を挟むのですが、差し入れとして配られたかき氷のシロップが、透明の白だったことも印象的です。

おはらい町から内宮に到着すると、引き手の数を減らして、直前の坂を昇りきるために短くした綱を手に一気に駆け抜け、奉曳車を導きます。
ようやく到着しました。
実は、引っ張っている時には奉曳車は遙か後ろ。なので、ほとんどその姿は見えなかったのですが、いざ目の前に来ると拍手喝采。出迎える人の笑顔もお白石のごとく純白に輝いたものでした。

この後、車から石を運び出し一人一つ石を受け取ったら、皇室の御祖神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)が祀られる御正殿に向かいます。

全身に汗が流れる中を奥に進むに連れて、何も考えることなく真っ白な気持ちになったのは本当で、鳥居の目の前に立つと、ふわっとした感覚に包まれます。
手元の石を少し強めに握りしめつつ、一歩一歩階段を踏みしめて御正殿の中に入り、しゃがんで石をそっと奉納したら、奉献団としての役割は終了です。
もう、二度と足を踏み入れることがないかもしれない場所での時間と記憶は、決して褪せることのない宝物となりました。
「伊勢で生まれてよかった」という言葉を使うことはできない自分ですが、その代わりに「伊勢が自分にとって特別な地になってよかった。」
という言葉を授かったのかもしれません。