旧中山道沿いに無数にはためく黄色いフラッグ。まるでフランスの夏も一緒に来日したかのような季節外れの陽射しの中、「2017ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」は開催されました。
オリンピック、サッカーワールドカップと並ぶ、世界三大スポーツイベントの一つが「ツール・ド・フランス」。夏真っ盛りの7月、フランス国内を中心に三週間で総走行距離・約6000キロを走破する、サイクルロードレースの頂点に位置するレースです。
そんなレースで活躍した選手を中心に国内外のプロチームを招待し、さいたま新都心駅の周辺エリアに設けられた、1周3キロの特設コースを19周して優勝を競います。5回目の開催となる今年はコースレイアウトが変更。さいたま新都心の東口・再開発中のエリアを中心に選手たちが駆け抜けます。
会場付近は、応援用の小旗や埼玉新聞発行の号外を手にした人で賑わい、
表彰台のほど近く、出場チームのテントには本番を前にした選手たちを一目見ようと、無数の人垣ができていました。
遠目に見えた黄色いジャージは、ツール・ド・フランス勝者の証。今年、マイヨ・ジョーヌを着て走るのはチームスカイのクリス・フルーム。
走りだけでなく紳士的な振る舞いでも知られるこの選手、来日以降は前日イベントでもファンサービスを積極的に行い、本番を控えたこの時間が、実は束の間のリラックスモードなのかもしれません。
そんなレース本番の数時間前。自分も愛車のロードバイクとともにこの会場にいました。なんと、さいたま市民200名を対象に、レース前に行われる一般体験走行に当たったんです…!
受付を終えて、手渡しされたのは参加特典の黄色い大会オフィシャルTシャツと、エネルギー源のバナナ。ツール・ド・フランスのイメージカラー・黄色づくしにテンションが高まります。
思い思いの愛車と共に、サイクルウェアの上に黄色いTシャツを来た参加者の顔には笑みが浮かび、スタートの時間が待ちきれないといったエネルギーに満ちあふれています。
実は、コース上で停車しての撮影は禁止されていたので(ロードバイクやヘルメットに取り付けたGoProとかはOK)、写真を撮ることができなかったのですが、サドルにまたがりペダルを回した約10分は、今までに体験したことのないものでした。
コースに出てすぐに聞こえる温かい拍手、「がんばれー!」の声援やスティックバルーンの音にペダルは軽快に回り、クリテリウム名物・アンダーパスの下りと上り坂の先には、フェンス越しにハイタッチを待ち構える観客の姿が。見ず知らずの人による一般体験走行なのに、こんなに温かく支えてもらえるなんて思いませんでした。
よく、選手は沿道の観客に励まされると聞きますが、自分がそれを受けてみて本当なんだと確信しました。走り終えた後、疲労感をまったく感じなかったのは、間違いなくそのおかげ。ゴールゲートを抜けた瞬間、今度はメインイベントでの応援に力を込めなければと。
それからしばらくして今度は選手を応援する番。この日のために建てられた特設観客席に向かう階段の先に見えるのは、スタンドを埋め尽くす大勢の観客の姿。
ボランティアスタッフの方に誘導された席から見えるのは、さっき通り抜けたゴールゲート。実はこの席は有料観客席。ロードレースは無料で観戦することができる数少ないスポーツ。ただ、その一方で大会開催には多額の運営経費は必要となります。
ということで、今回はオフィシャルサポーターに応募。寒さ対策のブランケットやトートバッグ、ピンバッチといったグッズと共に観戦します。
さぁ、レースのスタートです。今回のイベントはメインのクリテリウムメインレースを前に、各チームから代表1名がエントリーし、コース1周のタイムを競うスプリントレース。そして、3人一組となってゴールまでの所要時間が最も短かったチームが制するタイムトライアルレースが開催。
タイムトライアルレースでは、各チームが順々にスタートし、最も早かった1名の記録がチーム記録となるため、エース以外の2名はアシストに徹します。エースが好タイムを叩き出すことがアシストの喜び。車上で思わず両手が広がります。
低い体制でゴールに飛び込む姿は圧巻の一言。クイックステップフロアーズの青いジャージはさしずめ弾丸のよう。
もちろん、マイヨ・ジョーヌを身にまとうフルームも全力でペダルを回します。
こちらはスプリントレース。決勝では4選手が一斉にスタートして1周回のタイムを競います。ゴールに向かって、スプリンターと呼ばれるスピード自慢の3選手が並ぶ大接戦。勝ったのはクイックステップフロアーズのキッテル。大きな身体を折りたたみ、前傾姿勢で一番重いペダルを踏む姿から放たれるエネルギーは、すごいものがありました!
そして、いよいよメインレースのスタート。ツール・ド・フランスで活躍した各チームのエースを先頭に、19周の小さな旅が始まります。
周回を重ねるごとに、ひと塊だった選手は逃げグループと長いプロトン(集団)に分かれ、各チームの思惑と共に色々な選手が仕掛けを始めます。
途中、スプリントポイントや山岳ポイント(アンダーパスの上り坂が山岳扱い)が設定され、その瞬間を狙ったスパートも見どころの一つ。ここでも、キッテルが鬼のような踏み込みを見せてくれました。
レースが終わりに近づくと、有力選手が前に出て逃げ込みを図ります。ツール・ド・フランスで山岳賞ジャージを獲得したバルギル選手が抜け出すと、フルームがそれを追う。その後ろにはリオ五輪の金メダリストのヴァンアーベルマート選手や、ツール・ド・フランス総合2位のウラン選手といった各チームのエースが控えます。
残り300メートルとなり、逃げていたバルギルを始めとした先行集団の体力は限界に。そこに飛び出してきたのは名スプリンター・カヴェンディッシュ選手と、世界で活躍する日本人・別府史之! 激しい競り合いの末に制したのはカヴェンディッシュ。その差わずか約10センチでした。
実は今回が初めての来日というカヴェンディッシュ。日本のことを気に入ってくれたようで、こうした機会で日本の良さがアピールされることで、世界中にアンバサダーが広がる。イベントが始まって以来、そんな好循環が生まれています。
レース終了後も、表彰式に登場する選手を出待ちする大勢の観客。年に一度の祝祭が終わってロードレースの世界もしばしのオフシーズンを迎えます。来年も熱い走りに期待しながら、一般体験走行に当選しないかなぁ…と望むばかりです。