富士宮市・第2回B-1グランプリと富士宮やきそばを巡るひる・たびさんぽ(その8)~富士宮焼きそばの新しい可能性を探る店「小粋」~

15/06/2007静岡,中部,鉄板/粉もん料理,ひるたび・さんぽ

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「あき」から歩くこと約2分。緑色の建物が印象的なこのお店が、次の目的地である「小粋」。さっきまでいたあきとはうって変わって、こちらにはカウンターの他に、大人数が収容できる座敷も完備されている。

その座敷の一角に座って、メニューを見ると…「しろやきそば」、「大人の茶漬けそば」、「そばめしを○○にした…」。という気になるメニューが目白押し。もちろん、富士宮やきそばやしぐれ焼きも出しているので、何を選ぼうか作戦会議。結局、物珍しさからしろやきそば、大人の茶漬けそば、そして富士宮やきそばを注文。まず、運ばれてきたのは、そばではなく…

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一本の小瓶とこの言葉。

「この瓶には生乳が入っていまして、これを振っていくと徐々に脂肪分と水分に分離して、バターになっていきますので、振ってみてください。」ということで、交互に振る、振る、振る……とにかく振る。こうして振ること約7分。瓶から伝わる感触は、液体が動く感触から固体の重みへと変化していった。そのタイミングと同じくして、しろやきそばが運ばれてきた。

・しろやきそば
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ソースがかかってないやきそば。キラーアイテムであるダシ粉もかかっていない。そんなキャベツと肉カスだけが入ったやきそばに、さっきまで瓶を振って作ったバターを乗せる。

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で、混ぜる。

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これで完成。早速、一口ズズっと口に持っていくと、バターによる滑らかな口当たりとコク、これを一気に引き締める酢の酸味。そして、最も印象的だったのが、弾力のある濃厚な肉かすの旨み。ここまでの3軒では、ソースの味が主役の焼きそばを食べていたので、肉かすの印象があまりなかったのだが、ここのはしっかりとメインを張っている。

お店の方に伺うと、肉かすは既成のものではなく、そもそも焼きそばを焼く際に背脂を熱して、それを炒め油として使い、残ったものをそのまま肉かすとして使っているとのこと。つまり、ラードと肉かすを分けて考えるのではなく、「背脂を熱する→ラードと肉かすに分離される」という、考えてみれば至極まっとうな使い方をしているのだ。

・焼きそば

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で、そんな肉かすにこだわったお店の、やきそばがこちら。これぞ正調富士宮やきそばといった具合の外観なのだが、味は肉カスの弾力がそばの弾力と相まって、食感から広がる味に深い階層を作り出している。

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ソースの甘辛な味を、油と肉カスのコクが土台となって上手く包み込んでいる。もちろん、上に降りかけられる魔法の粉が作り出す旨みも十二分。2種類の焼きそばを食べていると、謎の3品目・大人の茶漬けそばが運ばれてきた。

・大人の茶漬けそば

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おおよそ今までに出会ったことのない焼きそばとの遭遇に思わず驚くしかなかったが、お店の方の「麺が温かいうちにかき混ぜて、お茶コラーゲンを溶かして絡ませてください」という指示に従ってしっかりかき混ぜる。

ズズッと啜ればお茶の味が豚コラーゲンの滑らかな舌触りを通じて口の中に広がり、そこにコラーゲンそのものの旨みが加わるという、明確な味のデザインが表現されている。そして、最後にお茶のふりかけによって、ホロ苦さがズンズンと前に出てくるのも印象的。

お茶漬けのいいところを、上手く焼きそばに投影させて、どのようにして個性ある麺に魅力を伝えるか。それが上手く商品として構成された一品である。

3品を食べて、前のお店と合わせて2時間弱で5品。午前中にあれだけ食べたにもかかわらず、これだけ胃袋に入ってしまうのは、自分は麺の個性、そしてお店が持つ富士宮焼きそばに対する、アイデンティティが放つ魅力。この二つがあってこそだと思う。

著者プロフィール

takapu

ごはんフォトグラファー/Local-Fooddesign代表
食にまつわる各種コンテンツ制作(フォトグラファー、エディター、フードライター、インタビュー)、商品開発・リニューアル提案、PRツール・ロゴ制作などを手掛けます。
創業75年以上の老舗食堂を紹介するウェブサイト百年食堂の制作・運営もしています。
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Posted by takapu