新橋・ボワヴェール 一つのロールモデルとして。
昨日の晩、西新橋の片隅で
むつ市大畑町のお土産試食会が開催されました。
主役は特産品のイカをたっぷり使ったイカ墨カレー。
特にイカ墨の量が通常の数倍入っているとのことで、
艶やかな黒が白い皿に映えます。
じわじわと辛さが効いてくるコクのある味は、
試食用のハーフポーションでは足りず、
フルポーションで食べたくなる一品。
一部の特産品カレーに見られる
「具も物足りないカレー味したソース」ではなく、
イカの弾力がしっかり楽しめるのもいい感じです。
昔ほどではないものの、
未だこの手の試食会では「好評でした」といった、
甘口コメントを集める場として
使われることもあるものです。
でも、本当に重要なのは8割の肯定ではなく2割の否定。
例えば、飲食店で開催する場合にはお店のシェフが
長所も短所も伝えるのがポイント。
昨日もそんな感じでした。
そして、それができるのは本気で地域を愛するお店だと思います。
例えば、このボワヴェールのように。
ある日の晩、酒が弱いなりのペースでアップルブランデーを口にしながら、
久しぶりにこのお店の味を堪能しました。
前菜は魚のマリネと、じゃがいものポタージュ。
甘さとコク、そこに酸味。
舌の反応を目覚めさせてくれる美味しさです。
タイミングがよければ、このポタージュは嶽きみで作られるのですが、
本当に美味しい時期にしかポタージュを作らないゆえ、
逆に食べられなかったことに、ある種の安堵感を覚えたものです。
一緒だった方と、青森について色々と話をしているうちに、
目の前に大きなプレートが。
最近になってメニューをリニューアルした、
お店のフラッグシップ・前菜盛り合わせ。
どの料理にも青森食材が
ふんだんに使われているのはもちろんですが、
感銘を受けたのが「けの汁」や「切り込み」、
あるいは「すしこ」といった、クラシックな青森料理の技法や
そのものが使われていること。
クラシックとニューウェーブとの融合がされています。
基本的に、自分は伝承料理の普遍的な美味しさが好きなので、
あまりにも創作の手が入りすぎた料理は、
心理的にちょっと…となります。
でも、こういった形でクラシックがリスペクトされ、
20世紀までの美味しさと21世紀の美味しさが、
融合されているのですから、心も舌も大満足です。
食べ応えある前菜の後は、石焼きの器の出番。
グルグル回せば、
牛トリッパのトマト煮込みの出来上がり、
くにゅっとした肉感的な歯触りと、
タマネギのシャキッとした食感が、
酸味の利いたトマトソースで
しっかり包み込まれています。
仕上げは、こめたまペペロンチーノ。
たっぷりのニンニクの香りと味が、
スープの旨味を無限に膨らませます。
食材や加工品のブランディング手法として、
奇を衒った調理やイベントで
対象たる食材や加工品の扱い店や知名度を飛ばす。
それも一つの方法です。
でも、地域を愛する方が実力を引き出せないと続かないもの。
そうなると、地域のためと言いつつ、
段々と自分のためのお店になってしまいます。
このお店は、愛する地域に対する思いの分だけ自分に厳しく、
それゆえ自身のレベルも進化しているのだと思います。
応援するために、食材や加工品を扱うだけじゃなく、
その味を実力を120%引き出して可能性を膨らませる役割。
そして、愛する地域に上のレベルへ邁進して欲しいと願う気持ち。
このお店は飲食店が地域を愛する気持ちを
美味しさの形で多くの方に届ける一つのロールモデル。
もっと、こういったお店が増えてもらいたいものです。