【パティスリーエクロール/福島県福島市】街を愛するパティシエールが作るケーキと焼菓子、そして音楽好きに最高のお土産菓子「クレ・ドゥ・ソル」

17/08/2020福島,東北,カフェ/喫茶店,テイクアウト,スイーツ,パン,ひるたび・さんぽ

パティスリーエクロールの外観

福島市に来ると意外に悩むのがお土産選び。福島駅構内のお店には、ままどおるや薄皮饅頭といった「福島銘菓」としてお馴染みものはありますが、せっかくですから「福島市生まれ育ち銘菓」を買いたいところ。

そんな気分でいるときに、福島の県庁通り沿いのオジマパンや、菊原キッチンカロリーの向かいに建つ上町テラスに見えた小さなお店。スクスクと伸びた入口の緑に誘われて近づくと、そこはパティスリーでした。

キラキラ輝くケーキや焼菓子、ヴィエノワズリーがお出迎え

パティスリーエクロールのケーキケース

お店に入ると壁面の棚に並ぶたくさんの焼菓子とガラス越しに輝くケーキがお出迎え。素材の華やかな色とスポンジやクリームが持つベースカラーが融合したケーキには、エネルギッシュな楽しさと静かに佇む品の良さを感じます。

パティスリーエクロールのヴィエノワズリー

ケーキケースの上にはクロワッサンやパンオショコラといったヴィエノワズリーも。こうした商品を眺めていると作り手の世界観に触れられる楽しさを感じます。

フランスで修行したパティシエールの技の結晶

そんなお菓子やパンを作るのが、地元出身のパティシエール・鈴木智絵さん。厨房とレジを行き来する小さな身体。そこに満ち溢れるエネルギーの源が気になって、商品のことを伺いつつご自身のお話を聞くことができました。

高校卒業後に北海道の専門学校を経て仙台の製菓メーカーに入った鈴木さんでしたが、「自分の作りたいお菓子と違和感を覚えた」ことをきっかけに上京し、コンフィチュール専門店で働きます。

瓶の中でキラキラと輝くコンフィチュールから、素材の色や香り、そして遊び心のあるフレーバーに触れて、「商品作りを通じてパティスリーの基礎を学んだ」そうです。

その後、「とにかく色々なものに出会いたかった」という好奇心は止まらず単身フランスへ。「パリよりもローカルの顔をみたかった」という鈴木さん。ブルターニュを皮切りにフランス各地で郷土菓子と出会い、修行に励みました。

そこで触れたのは「パティスリーとお客さんとの間に生まれる、おいしさと楽しさが作る関係性」。目指したいものを見つけた鈴木さんは、再び東京に戻ってホテルで修行。ケーキのスポンジづくりといったお菓子の土台となる部分を学んだ期間は「色々な哲学や仕事ぶりに触れることができた」という大切な時間だったそう。

こうして、全て経験と思いの結晶として、パティスリーエクロールは二年前にオープンしました。

イートインスペースで楽しめるケーキセットと、フランスでお馴染みの「サロン・ド・テ」スタイル

パティスリーエクロールのケーキセット

そんな思いと技術で作られた焼菓子・生菓子をイートインスペースでいただきます。お店の商品は全てここで食べられるそうですが、今回はケーキセットを注文。

選んだのは季節のフルーツを使ったショートケーキ。軽くふわふわした口当たりの先にしなやかな弾力を感じるスポンジと、しっとり滑らか甘さ控えめの生クリーム。「福島産を中心にフルーツを選んで、持ち味の個性を大切にしている」というコンセプトのとおり、果物の甘さや酸味といった特長を際立たせるバランスが繊細に組み上げられています。

そして目が合って我慢できずに追加したシュークリーム。まずシンプルに生地がおいしいです! 厚みのあるサクサクと香ばしいシュー生地の食感が心地よく、中にたっぷり詰まったバニラカスタードを口の中に置くと、少しずつ卵の濃厚な味が開いてきます。クリームがタプタプした質感なので、頬張るときにも崩れないのが嬉しいポイント。蓋でクリームをたっぷり拭って食べればもう、幸せ一直線です。

パティスリーエクロールのサロン・ド・テセット

そしてこちらが最近始めたという「サロン・ド・テ」セット。

フランスではアルコールも含めたとしたドリンクを楽しむ場が「カフェ」なのに対し、ケーキを飲み物と一緒に楽しむ場が「サロン・ド・テ」。もちろん2つとも暮らしに欠かせない定番のスタイルです。このセットでは、鈴木さんがフランスの色々なサロン・ド・テに触れてときめいた実体験を、パンや焼菓子、そしてエスプレッソのセットメニューに編集して提供しています。

パリしっとりといった趣の歯ざわりが楽しいクロワッサン、バターの香りとコクがしっとり生地から豊かに広がるマドレーヌ。そして表面軽やか中身しっとり、サンドされたガナッシュの濃厚な甘さが余韻を残すマカロン。パティスリーでお腹いっぱいになる経験って少ないものですが、このセットは確実にブランチ向けです(ドリンクが2杯飲めるのもうれしい!)。

すっかり甘いものでお腹が満たされたところで、この気持ちを家に運ぶお土産選びへと移ります。

彩り豊かなコンフィチュールと、種類豊富な焼菓子たち

パティスリーエクロールのコンフィチュール

まずはコンフィチュール。「素材を大切にすることを教えてくれた」原点と語るいわばお店のシンボル。「本当はもっと色々な味を作りたいけど、なかなか時間もなくて…」と語る姿に愛を感じます。

選んだアプリコット&フランボワーズは、濃厚な甘さの中にフルーツの香りと果肉感がぎっしり。パンの上でしなやかに伸びてくれるので、バゲットにも食パンにしっかり馴染みます。

パティスリーエクロールの焼菓子

種類豊富な焼菓子は小さな個包装なので、バッグの余白に入れて帰りの新幹線で食べるもよしな存在。右のクッキーのように、袋の口を止められるのってうれしいですよね。

こういうお土産がほしかった!音楽の街を象徴するクッキー×チョコクリームの「クレ・ドゥ・ソル」

パティスリーエクロールの「クレ・ドゥ・ソル」の看板

でも、一番気になったのは店頭の看板で見つけた、このクレ・ドゥ・ソルというお菓子。

パティスリーエクロールの「クレ・ドゥ・ソル」の店内販売棚

フランス語でト音記号を表すというこのお菓子は、朝ドラ・エールの放送に合わせて開発。福島県産の米粉を100%使ったアイスボックスクッキーで、チョコレートクリームをサンド。渦巻き模様をト音記号のデザインに組み合わせた遊び心が楽しく、小麦アレルギーの方にも喜んでもらえるのもポイント。

チョコレートクリームのフレーバーがいくつかあったのですが、まずはスタンダードのチョコを箱買いしました。

パティスリーエクロールの「クレ・ドゥ・ソル」

個包装から取り出すと、驚いたのが2センチほどの厚みと手に響くしっかり感。もちろんクリームもたっぷり。食べる前にテンションが高まります。

口に運べばチョコレートやアーモンドの豊かな香りと生地のバターの香り。サクサクと軽やかな食感に、かすかなしっとり感を残した特徴的な歯ざわり。溶け出さない固さを持ったクリームが口の温度で溶けると一体になります。

クッキーはさっぱり目、チョコレートクリームはしっかり目の甘さ。どことなくホームメイド感があるおいしさが喉の奥に近づくほど、さらに香りが膨らんで味の余韻へと導きます。

厚めのクッキーが2枚だったので、食べる前は全体にかなり重厚かもと思ったのですが、米粉のさっぱりした生地の特性がいかんなく発揮。生地が細かい粉になってポロポロ落ちることも少なくて食べやすい。

いわばこれは音楽の街・福島市に生まれた新しいお土産のスタンダードナンバー。誰にでも喜んでもらえて当地らしさを伝えるお土産にうってつけの一品です!

お菓子づくりの原点は「人が喜ぶ笑顔」と故郷への思い

パティスリーエクロールの焼菓子セット
結局は選びきれずに、クレ・ドゥ・ソルだけではなく焼菓子のセットもお土産に。

「もともと物を作ることが好きだった」という鈴木さん。子供の頃から裁縫や料理、編み物、ビーズにハマっていました。その理由は「自分の作ったもので人が喜ぶことが嬉しかった」から。もちろん、おかし作りも大好きで、おじいちゃんにバレンタインチョコを作ったときには、「孫にチョコレートを貰ったと嬉しそうに、ご近所の人に自慢していた」ことが嬉しかったそう。

これが原体験となって「家族にデザートを振る舞ったり、友人の誕生日に学校にサプライズケーキを持ち込んだり」と、一層お菓子作りに励んでいきましたが、「シュークリームの生地がなかなか上手く膨らまなかったり、シフォンケーキが萎んでしまったり。スポンジケーキがなかなかふんわりと焼けなかったり…」と、うまく作れなかったこともあったといいます。

それでも、「上手くいかなかったときに何度も試行錯誤することも楽しくて、だからこそ上手く作れた時の喜びもひとしおでした」と、小さな頃から前向きな姿勢で道を切り開いてきました。

「何よりも、お菓子は人を笑顔にします。私は根本的に人が喜ぶ姿を見ることが好きなんだと思いました。自分の手から生み出したもので人を笑顔に出来る。そんなお菓子を作っていきたい、仕事にすることを目指そうと考えました」

小さなお店の中で輝くお菓子は、パティシエールを目指した日に生まれた強い決意と、「地元の食材を自分のお菓子をきっかけに少しでも知ってもらえたら」という、故郷・福島への愛が込められたもの。

「これからも、お客様の思い出の一部、誰かと誰かを繋ぐきっかけ、人の記憶として残るようなお菓子を作り続けていきたいと思います。いつか小さかったあの子が、子供の頃に自分のケーキを食べた思い出を語ってくれる日が来ることを願い、仕事を続けていきたいと思います」

店名のエクロールはフランス語で「花が咲く」という意味。この街には今も聞き語り継がれる音楽と、未来に向けて語り継がれる、花のように可憐なスイーツがありました。

著者プロフィール

takapu

ごはんフォトグラファー/Local-Fooddesign代表
食にまつわる各種コンテンツ制作(フォトグラファー、エディター、フードライター、インタビュー)、商品開発・リニューアル提案、PRツール・ロゴ制作などを手掛けます。
創業75年以上の老舗食堂を紹介するウェブサイト百年食堂の制作・運営もしています。
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