
青森県内各地で次々と開花宣言が出て、いよいよ満開に向かってのラストスパート。さすがに寒の戻りがあったとしても、こんな感じに町を雪が覆うことはないでしょう。

そういえば、3ヶ月半ほど前に暖簾をくぐったしまやの入口も、白く覆われていました。

いつものようにカウンター席に座れば、おかずがたっぷり盛られた琺瑯の角バットが並ぶ絶景が広がります。
その先にある手書きのおすすめメニューを追っていると、ボトルキープの棚に猫村さんの姿が。作者の方が取材で訪れた際に、書いてもらったものなんだそうです。

いつもの身欠きにしんの煮付けに棒鱈煮。イカは酢味噌和え。
「身欠きにしんの煮付けなんて簡単よ。煮るだけなんだから」なんて、おかみさんは言うのですが、この歯ざわりと味の染み加減は、毎日のように鍋と向き合ってないと作れない至味だと思うんです。

お次は、青森魚卵界の中心選手・真鱈子の塩辛に助子の煮付け。そして、温泉もやしの炒めものとツブ貝と凍み豆腐の煮付け。
プチプチ、むにゅむにゅ、シャキシャキ、とろり…食感を楽しみながら、にじみ出る味を堪能する。津軽の冬のごちそうの揃い踏みに、お酒の力もあって顔がほころびっぱなしです。

カウンターに置かれたガラスケースで目が合ったマグロの赤身。ねっとりと舌に滑らかに絡めば、じんわりと酸味が舌に広がります。

そして、締めは津軽そば。口元に箸で運べばフツフツした独特の食感。箸越しに手も大喜びです。
海苔とネギの香りを浴びながらグイっとお出汁を飲み干せば、小さく「はぁ〜」と声が出てしまうのは、地域の生活が溶け込んだ温かさだからこそ。
考えてみればここ数年、弘前で夕食を食べるとなれば決まってこのお店。
どうしてだろうと考えてみれば、四季折々の新鮮な食材を一番おいしい方法で食べることができるから。津軽に根付いた方法で保存された食材に、ひと手間加えられて目の前に現れる。エプロン姿でいつもやさしく料理のことを教えてくれる女将さんがいて、他のお客さんともほどよく打ち解けることができる。
割と人見知りな自分にとって、ただの美味しいじゃなくて心が通い合った美味しいがある。だからなんだろうと。

花見になればトゲクリガニの季節。もうすぐ、暖簾をくぐりに行きます。
それにしても、ここには数えきれないほど通っているなぁ…と。