江古田という街が、こんなに食べ歩きに楽しい街だとは知りませんでした… 後編
小さいようで大きな街、そんな江古田に来た主な目的は、カフェとパン屋さんめぐり。前半戦、心地よさをこれでもかと与えてくれるカフェや、立ち寄ったパン屋さんの底力を感じながら、次に向かったのはロクアーチェというパン屋さん。
店内は小さいものの、4段ぐらいの高い棚にぎっしりと詰まっているのは、ブラウンを基調としたシックな装いのパンや、そこに色々な色を足し算したパン、そして20種類近くのラスク。このラスクがとにかくすごい。ベーシックなものから、変化球まで、さしずめラスクミュージアムといった趣。
で、ここで買ったパンはこの4種類。
・クロッカン
ナッツの上にガラステーブルのごとく覆う砂糖を含めて、全体に香ばしい。見た目よりも食感はやさしく、その裏側に忍ぶのはクルミ、ピーナッツ、そしてカシューナッツによる、コクの共演。焼き上げられることによって、際立った香りが口に広がり、これをデニッシュ生地の強さが包み込む。これらの食感の違いも、味を構成する大きなポイント。
・5種類の豆のパン
豆のパンは、5種類の豆に加えて、生地の中にくるみがしっかり。やわらかい豆としっかりしたくるみの食感がコントラストになっている。豆が虹のように織り成す鮮やかなルックスと、そこから生み出される深い味に、くるみのホロ苦さが上手く重なっている。生地の味とクルミの味、そして豆のカラフルな味。これぞ三位一体といった具合。
・チーズのパイ
パイ生地の上には、しっかりと濃厚なチーズが。上の2つと違ってシンプルな足し算メニューゆえに、チーズの存在感が際立つ一品。
・メロンパンラスクとココアラスク
ラスクからは、メロンパンラスクとココアラスクを選択。そして、特に秀逸だったのが、メロンパンラスク。
クッキー生地に更なる焼きを加えると、強さを増した食感は強烈な印象を残し、しかも芳醇な香りを持つ一品になる。また、クッキー生地に包まれたパン生地の軽めの食感と、力強いコントラストを作り出していたのも大きな特長。正直、これは、あと3袋ばかし買っておきたかった。
次に向かったのは、練馬大根酵母の文字がキラリと光るデンマーク。
ここも、柔道の無差別級のごとく、ありとあらゆるジャンルのパンが揃うお店。目移りする中で目を引いたのがこの2種類。
・さつまいものパン(名前失念)
袋を開けると焦がし醤油の香りが。豪快なボリューム感をその姿から伝えており、フィリングもギッチリと詰まっている。表面のモンブランのごとくな部分は、ペースト感はやや少なめ。一言で言うと、まさに町のパン屋さんな味。
・コーヒークリームパン
コーヒークリームパンは、コーヒーの香りを含めて、クリームの味に燻し銀的なものを感じた。大人向けのクリームパンジャンルの一つとして、これはありなのではと思うのと同時に、色々な意味で伸びしろを感じたのも事実。
そして、事前に案内役の方に「黒ぱんや」というお店で買ってもらったのが、この2種類。
・りんごジャムサンド
なんといっても生地の深い味。そこにリンゴの酸味とチーズのコク。シンプルな構成ながら一つ一つが持つ力が強いこその、素朴で純粋な味。全粒粉ものに見られがちな「なんとなく遠いところにあるパン」というものではなく、「手の届くところにあるパン」というオーラを持った一品。
・クッキー
3種類のクッキーの素顔は、まったく異なる。
咀嚼するごとに、とうもろこしの粒がプチプチと、口の中ではじけるように心地よい音を鳴らす。これが小麦の生地の甘さとコクに刺激と満足度を与え、味に鋭さを持った刺激のようなコクという、もう一つの顔を作り出すもの。
シリアルのレーズンやアーモンドの野生的な味が、生地を引き締める。生地そのものはサクっと軽いものの、これが入っていることで食べ応えを楽しめるもの。
そして、ジンジャーのほのかな刺激が、生地の甘さの後にふわっとやさしく広がるもの。
そんな、コンビネーションが印象的。
やはり、江古田のパン力はすごい。気取ってないけれど洗練されている。そんな理想的なパン屋さんが数多く揃っている。これは街の魅力を高める上で重要な要素である。
そんな風にして、パンをあれやこれやと買った後、大きな道や細い道、色々な道を歩き回って、駅付近にあるToris Cafeへと向かう。
店舗用の物件ではなく、住宅を居抜き的に使ったリノベーションなカフェ。なので、江古田という町にも一本の路地裏にも溶け込んだ外観。目の前のドアを開けると、目に飛び込んでくるのは、洒落なツボをしっかりと押さえたインテリア。
そんなカフェに大人数で入ると、あれやこれやと注文することができる嬉しさがある。
例えば、とても大きなクレームブリュレやチーズケーキ。
あるいは、サツマイモの春巻き。
素材の味がしっかりしていれば、あとはその素材に任せて、素材の味をそのまま出せばいい。
でも、そこに適切なさじ加減で味付けをすることで味の階層が生まれ、その階層が積み重なればなるほど、味の厚みも増していく。それは、お店の文化が重なることで街の魅力に厚みを生みだす、江古田の街そのものを語るような一品。
不思議な街ながらにして、不思議の理由が妙に納得できる街。そして、食べ歩きに楽しい街。素敵な街。機会があれば、そんな街に身を置いてみたいものである。
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