
東京から約二時間、常磐道を北上し埼玉、千葉の順に県境を越えて茨城県へ。高速道路の橋桁から見ると、ここにも東日本大震災による物理的あるいは心理的な被害が生じています。
インターで高速を降りて10分ほど。JAの直売所を目印に向かったお目当ての店は、民芸茶房・栗の家。古民家を改築して土日祝だけ営業している甘味処。和の空気に包まれた静寂の中に、躍動するモンブランの文字。

建物を凛と引き締める白のれんの先に入ると、当時の質感を残した柱や大きな箪笥に金庫が置かれた吹き抜けがお出迎え。席に案内されてメニューを見ているうちに、色々な和菓子にも心移りしそうでしたが、やっぱりモンブランが気になります。

まずは、ご一緒いただいた方が注文した栗蒸し羊羹のセット。手しごとの効いた断面から、やさしい甘さが伝わってきます。見てるだけなのに満たされるのは、こういった様式美があるからなんでしょう。

そして、モンブラン。こんな姿のモンブランは初めてです。
ベーシックなものやペンキを塗ったようなモンブランにはお目に掛かってきたのですが、これは土台のない、つまり和栗のペーストだけで築かれた山脈なんです。
早速、フォークで一合目あたりから口にすると和栗の甘さだけ。あまりのシンプルさに驚きを隠せず、あまりのおいしさに喜びは隠せません。ふわっと鼻腔に抜ける栗の香りは、余計な足し算を施さないからこそ。この加減こそが本当の技術というものだと思うんです。
ほろっと繊細に、今すぐに崩れてしまいそうな姿ですが、頂点にたどり着くまで秋の山脈は持ちこたえてくれました。すごいものです。
正直、これまであまり意識していなかった茨城の味ですが、あの日のことを含めて、和栗の味と共に刻ませてもらいました。