青森の野菜とフルーツ 薄化粧だからこそ見える本当の色、五感で触れる素材の力。
肉にしても、野菜にしてもフルーツにしても、
とにかく素材の個性が強いが高いのが青森県。
だから、この実力を100%引き出せば、
食べ手の心に残る素敵な料理になる。
でも、
素材の良さを引き出すのではなく、
調理という名の下、
素材の上に過剰なコーティングをした店があれば、
一時の流行を追ってしまい、
青森の素材から、青森らしさを殺しているような店もある。
これは加工品も同じで、
県産の食材を何でもかんでも、
加工品にすればいいもんじゃない。
いい食材は手を加えなくても輝きだす。
むしろ、その輝きの微調整をするだけで、
いいんだと思う。
三田にあるアンチエイジングレストラン
「Rire」で食べた料理の数々。
例えば、この「彩りトマトのパルフェ」。
弘前の「まごころ農場」で育まれた
トマトを画を描くように並べて、
そこにジュレを加えたもの。
グリーン、イエロー、ブラック…といった具合に、
おおよそトマトらしからぬ個性的な色が、
酸味が、そして甘さがお皿の上で活きている。
洋梨と鴨の軽いスモークサラダ。
鮮やかな褐色に、実は青森の得意科目である、
洋梨の果肉の組み合わせ。
燻された香りが口に広がったところで、
洋梨の瑞々しいエキスと鴨のエキスが重なる。
締まった甘さが鴨の旨さにかけ算のような働きをする。
蕪のムース。
無垢な白と緑のメリハリが、
シンプルな味であることを教えてくれるが、
一口目に感じるのは、シンプルの中に
目に見えない装飾が施されているということ。
蕪自体、一般的にはそこまで味に強い性格を持っている
印象は強いものではないが、
青森の蕪は濃く性格がはっきりしている。
滑らかな口当たりから、自然の甘さが
舌に染み込んでくる。この感覚がたまらない。
そういえば、「蕪の共和え」という、
蕪の身を衣にして蕪本体と和える料理が、
あるよなぁ…と、ふと思い出す。
青森シャモロックとフォアグラクロニンニクのバロティーヌ ハーブのサラダ添え
外側からシャモロック、
フォアグラの層で黒ニンニクを包み、
黒い中心部を覆うように、鮮やかな緑のハーブがたっぷりと。
シャモロックの肉質は、
とにかく弾力に満ちているものなので、
フォアグラとの階調の大きさを魅せると思いきや、
最初に黒ニンニクのフルーツのような甘い香りが、
口の中を支配してしまった。
そこに、肉とフォアグラの味が、
直接的にではなくニンニクの個性を
際立てるかのように融合してくる。
既成概念を楽々と乗り越えるごとくに、
柔らかく滑らかな口当たりのシャモロック、
重たい癖のまったくないフォアグラ。
そこに、黒ニンニクの強烈な存在感。
これぞ真っ当だけど絶妙な足し算。
一見、ペーストされた野菜のスープと思いきや、
カップの主役はニンニク。
その色が奥入瀬渓流のような鮮やかな緑なので、
ニンニクの姿を想像できないものの、
一口飲めば、パスタソースそのものを、
口にしているような濃厚な味わい。
もちろん、大西ハーブ農園の無農薬イタリアンパセリの緑も、
ニンニクの強烈な存在感に対して、
色鮮やかな存在感をいかんなく発揮している。
奥入瀬ガーリックポークのアールグレー蒸しのソテー アピオスと初雪茸を添えて
赤身をソテーしたものと、アールグレーで煮込んだものを、
更にソテーして仕上げにバルサミコの香りを付けたという一品。
口の中に運ぶと、
脂の匂いではなく赤身の「特性がない香り」が広がるソテーと、
脂味と肉味にアールグレーのケープをまとった組み合わせ。
考えてみると、
香りの差は料理の印象に大きな差を付ける。
臭みがないという香りと、作り手のセンスによる香り。
一つのプレートで双方のバランスを取るには、
そもそも素材が上質であることが必須。
資格を得た素材じゃないと、
こんなことはできない。
そして、初雪茸とアピオスが
ここに弾と固を加えて立体的な一品に。
3種類のデザート。
カシスのムースとプルーンのスチューベンコンポート キュイソンをジュレに
メロンのスープとハーブのブラマンジェ
昔風りんごのタルトとがまずみりんごヨーグルトのシャーベット添え
紫、
爽やかな緑と白、
成熟した赤と若い赤とのグラデーション。
その構成が何より楽しく、
ここから広がる酸味や甘味の印象は、
色と共に深く刻まれる。
これらの素材が育まれた地は、
色々な条件に恵まれた地。
だから、その自然によって作られ色に感謝し、
色と共に宿る歯触りや香りに対して
リスペクトをすることで
必ずいいものに仕上がる。
過度に作り手が前に出ない、
でも、お皿に描くプロセスや、
あるいはちょっと手を加えて素材の個性を出すのが、
作り手の責務。
ただ、
残念ながら青森にはこれをいじりすぎているお店もある。
きっと、素材に対する尊敬が足りないのかもしれない。
形に見えない誇りが宿った料理は、
心地よく五感に響く。
そして、青森の素材はそんな料理のメインキャストになれる。
もちろん、現地で食べれば素材が生まれた背景を感じながら、
感動に触れることができる。
改めて、そんなことを感じた夜だった。