大阪・ゼー六 薄皮に包まれた甘い記憶
東西南北に広がる大阪の地下鉄。
他の路線に乗り換える度に、
初めて見る車両がホームに入って来る姿を見ると、
得した気分になります。
そんな具合に、本とん平焼きを食べた足で、
東梅田から谷町線から中央線に乗り換えて、
堺筋本町の駅からしばし歩くと、
懐かしさに満ちた一角が見えてきます。
そのお店の名前は「ゼー六」。
一度聞いたら忘れない変わった名前ですが、
お店の由来は、商人に無用の贅物六つ(禄、閥、引、学、太刀、身分)
なんだそうです。
こじんまりした店内に入り、
数少ない空きテーブルを見つけて、
お目当てだったアイスモナカと珈琲のセットを注文しました。
白いモナカの中心にはゼー六の文字が、
それを囲むようにICECREAMの文字が刻印されています。
7センチぐらいの小さなサイズなのに、
手で持ち上げれば、ずっしりと重さが伝わってきて、
期待値は高まるばかりです。
頬張ると驚くほど薄い皮の食感の下に、
ぎっしりつまったアイスの層。
今どきのモナカのように、クリーミーに蕩けるのではなく、
シャクシャクとした食感を楽しんでいるうちに、
懐かしさがにじみ出てくるような味。
シンプルな甘さとすっきりした後味だからこそ、
食べ飽きることなく、一つ食べ終わると余韻が後を引きます。
口の中が少し冷えたところで自家焙煎の珈琲を一口飲めば、
香りがしっかり立った深い味。
アイスのシンプルな魅力を一層際立てます。
これまで、まったく同じことを経験したことがないのに、
懐かしさ覚えるような感覚に包まれるのは、
不思議なものです。
そんな時間に身を預けている間も、
外にはひっきりなしにお客さんが訪れ、
店頭でアイスモナカを受け取って、
笑顔が生まれています。
かつて、この界隈にも空襲があったそうですが、
奇跡的に残ったこのお店で、昔ながらの製法で生まれた味が、
そのまま伝承されて時代を紡ぐ。
アイスは溶けるものですが、
大阪の一角で生まれる甘さの記憶は、
溶けることなく今日も受け継がれています。