「いつでも行けるから、今日はいいや。」
そんな考えでいるから、
お店が閉まった時に心の底から後悔する。
「いつ行こう?」
じゃない、今行かずにどうする。
「あぁ、行っておけばよかったなぁ…」
なんて、自分を主役にした三文芝居に浸ってるんじゃない。
横文字の花が可憐に咲く銀座に根ざした、
雑草のごとき逞しい外観。
窓際の席に座って、
大森、大井を通過して蒲田を頼んだけど、
もっとたっぷり辛さのシャワーを、
果物と野菜のスポットを浴びたくて、ツン蒲に切り替える。
半熟卵をスプーンで破る前に一口、辛い。
また一口、辛い、旨い。
舌が辛さとスパイスの虜になる、
舌の端から端をマントのように一瞬にして覆う。
一刺しも二刺しもする比類なき辛さは、いつだって全開だ。
だから、蒲田の先のツン蒲まで乗り越したい。
半熟卵の黄身を崩す、まろやかになる。
でも絶対に味は寝ぼけない。雨にも風にも負けない根っこがあるから。
白身と黄身をバランスよく…なんて考えるのは無粋、
むさぼれ、夢中でむさぼれ!
器が空になるまで一気に駆け抜けろ、
辛さと旨さの先を突っ走れ。
それが、この味を守り続けてきたお店に対する流儀だ。
食後はお水をぐいっと。
食べているうちに、1杯目が空になって、
ご主人に注いでもらう2杯目を。これが旨いこと旨いこと。
3.11以降、お店が地盤沈下してしまったことと、
建物の老朽化したのを理由に、ここで一旦幕を下ろしてしまう。
でも、味の記憶は緩まない、味への愛情が老いることもない。
帰り際に伺えたのは、
また、場所を変えてやるかもしれないという、
嬉しい一言。
銀座の地から辛さと旨さと居心地で、
昼の1時間だけオリジナルの世界に連れ行ってくれる。
そんなことができるお店、やっぱり思いつかない。
今月までだなんて、寂しすぎる。
銀座・ニューキャッスル 辛来飯(ツン蒲・840円)
