黒石駅前からタクシーに乗り込んで5分ほど。道の脇に雪が積もる中で到着したのは、お店というよりは普通の一軒家のようなたたずまいの建物。ただ、店名の目立ち具合は一級品。で、お店に入るべくガラス戸に近づいてみると…
焼鳥屋さんにもかかわらず、ハンバーグを初めとしたお弁当のラインナップが目立つ。不思議な感覚を持ってガラス戸を開けると、目の前には焼く前の串に刺さった鶏肉が入ったケース。そして、その横には、
こんな具合に置かれてたマンガが、やきとり弁当を注文した部活帰りの高校生の相手をしていた。さて、自分は焼きそばを注文したものの
「あぁ、ごめん。終わっちゃったのよ…ちょっと、お父さんに聞いてみるわね」
と、お店の隣の建物にいたダンナさまに作ってもらえることに。ご夫婦のほほえましいやり取りの中、焼きそばが透明のケースにたっぷりと盛られる。
ちなみに、注文したのは大盛りではなくレギュラーサイズ。なのに、大盛りにしか思えないような量の焼きそばが、次から次へとケースに吸い込まれていく。そして、割り箸と一緒に受け取って、店内の小さな飲食スペースに腰掛ける。
黒石やきそばの特長は、この色からして濃厚なソースと太いそばである。ただ、最近はつゆ焼きそばなるものが、テレビで取り上げられたことで、こっちが黒石やきそばとして有名になっているのかもしれない。
ちなみに、自分は今回見送ったのだが、ここに連れてきてくれたタクシーの運転手さん曰く「欽ちゃんがねぇ、つゆ焼きそばをテレビで食べてからは、その店は3時間待ちとかもあるみたいだよ。」とのこと。
さて、こちらの焼きそばのフタを開くと、鼻に伝わってくるのは香りの時点で味が解るぐらいに、甘辛く濃厚なソースの香り。そして、そばをズズっと口に持っていこうとすると、ソースがしっかり絡んでいるので、箸にずっしりと重さが伝わる。
ようやく、数本引っ張り出してズズっとすすると、なんとも強いハリとコシ。そして、この麺の個性としっかりかみ合った、ソースの濃厚で甘辛な味。ともすればジャンクな味に終始してしまうかもしれないこの一品に奥深さを感じるのは、麺とソースの絶妙なバランスが展開されているから。
肉もしっかりと厚めのが入っていたり、キャベツがこの甘辛を緩和する役割と、自身の甘さによって味の幅を広げていたり、個々の具がしっかりと焼きそばの味を高めていた。
とはいえ、やっぱり主役は麺とソースの組み合わせ。食べているときにジャポネが頭をよぎったのだが、たしかに食べているときに感じるのは、「今、半分ぐらいだよなぁ」という、まるで登山中のクライマーみたいな感覚。
お茶を出してくれたおばぁちゃんに、ごちそうさまを伝えると、おばぁちゃんの顔が優しくほころんだ。こんな笑顔を見ると、こちらも嬉しくなるのだが、この笑顔から離れなければならないことが、逆に寂しさとなって胸に広がってくる。
黒石の駅から弘前に戻り、特急に乗って八戸へ向かう。こうして、3時間の小さい旅が終わり、三日間の青森時間は終わろうとしている。
弘前の駅から八戸に向かう際、あれだけ食べたにもかかわらず、お腹が空いてしまった。
笑顔を思い出しながら、お腹と心を満たすことにした。