蓮根・すし玄 花咲く海鮮巻と職人芸
特別な日には暖簾をくぐって、カウンター席で職人さんが握る姿と共に味わって、
家族みんなで食べる事自体を楽しむなら、回転レーンの席でタッチパネルとにらめっこ。
雨の日に家で食べたくなったら、宅配専門店に電話する。
昔と比べて、お寿司を食べる手段は本当に多彩になったものですが、
忘れてはいけないのが、持ち帰り寿司のお店。
でも都内では、スーパーの惣菜コーナーに並ぶにぎり寿司や海苔巻きのバリエーションが増えたり、海鮮丼専門店が増えるに連れて、見かけることが少なくなった気がします。
都営三田線の蓮根駅から歩いて5分ほど。
この街の台所となっているのが、蓮根中央商店会。
肉、魚、野菜、練り物、お米といった具合に、昔ながらの商店が今も残る一角です。
この通りで30年に渡って営まれているのが「すし玄」さん。
「寿司」の文字が描かれた幟がはためき、敷居の高さを感じさせることなく誰でも気軽に入れる佇まいです。
中に入って驚かされたのは、ガラスケースにズラッと並ぶ巻物の姿。
100円で買える納豆巻やかっぱ巻きから、
シーチキンやアボカド、ハムチーズ、わさび葉、ウニ、いくらまで。指折り数えたその数を忘れてしまうほど豊富な品揃えです。
下段に目を移せば、いなりずしに太巻きに大阪寿司、そして江戸前のにぎり寿司。
もう、どう選べばいいのかわかりません。そこで目に入ってきたのがサービスメニュー。そこに輝いていたのが海鮮巻の文字と写真。
弘前や五所川原ではお馴染みの生太巻き。たっぷりの寿司ネタが巻かれた鮮やかな断面は、雪深い津軽の地に一年中咲く花のよう。
その記憶に従えばスラスラと注文も流れていくものです。
まずは海鮮巻から。かんぴょう巻きを芯にして、マグロの赤身やエビにいくら。そして卵焼きにカニカマに胡瓜と桜でんぶ。
右手にズッシリと感じる重たさを口に運んで頬張れば色々な味が混ざり合い、うんちくめいた難しいことを考えるなんてナンセンス。シンプルに楽しさから始まる美味しさがぎっしり詰まっています。
ちなみにこれで税抜き400円。衝撃です。
次に細巻。このお店では細巻と呼ばれているのですが、直径約6センチの手巻ずしが細いなら、コンビニの細巻きはどうなってしまうのでしょう。
包みたての巻物の醍醐味は、パリパリの海苔とぎゅっと詰まった具材のインパクトが、一気に飛び込んでくる一口目。
でも、おしりから見えるかんぴょうのUターン地帯を見れば、その食べ応えと満足度をご想像いただけるはずです。
ちなみに、かんぴょう巻も1本100円。イカ明太は135円。薄焼き卵で巻く黄金巻も、ふんわりした口当たりが楽しいんです。
そして、鯖の炙りはからしマヨ醤油で。少ししっかりと炙られた鯖からは、じゅんわりと脂が滲み出してきます。こちらも5カン入りで400円。
もちろん、江戸前のにぎり寿司も忘れちゃいけません。イカの柔らかさや大爆発する大量のいくら。2尾のエビが彩りを添えています。
注文してから一つ一つ丁寧に作られるので、持ち帰ってテーブルに並べればハレの日の食卓。
「何かいいことがあった日には、ここの大きな桶ずしを注文しよう。」
もう、惚れ込んでしまいました。