雪が谷大塚・食堂廣田 たぶん、日本一食べている時間が楽しいカキフライは、このカキフライです!
カキタベニストとして、毎年の真牡蠣シーズン中に、一度は果たさなければならないミッションというのがある。それが、このお店のカキフライを食べること。
今回で3回目となるのだが、毎年この時期になると、「カキフライやります!」というメールが来るのが楽しみで仕方がない。
そして、今年も吉報が届いた。
今年は名誉カキタベニストの霞町恵一郎氏、そしてカキタベニスト以上に牡蠣を愛するこの方と、急なお誘いにもかかわらず、わざわざ駆けつけてくださったこの方との4人で、カキフライと対面することに。
こちらの方と合流し、やわらかい灯りが点る薄暗い店内に足を踏み入れると、既にサッポロラガーを片手に、照明と同じぐらいに肌色と紅色が入り混じっていた顔の霞町氏が。そこにラガーをもう1本追加し、自分はウーロン茶を片手にこの方を待つ。
ウーロン茶が空になるタイミングで、携帯に連絡が入ったので、店外に出て合流して店内に案内。それが始まりの合図となった。
この日のカキフライを中心としたコースは、この「サーモンマリネに包まれたサーモンムース サラダ」から。薄暗い店内なので、かなりスローシャッターとなる(実は、この後の写真もブレ気味です…すいません)。
去年も口にしたいわば定番の一品は、プリプリとしたマリネのやさしい酸味と、ムースの口溶けから広がる甘さとコクの組み合わせのメリハリを伝え、そこに鎌倉ルッコラの爽やかな苦味という旨みが加わる。
・大山鶏胸肉 炙りクリームソース
さっと表面を炙った胸肉にクリームソースを注いだもの。横のいんげんとの白と緑のコントラストが、薄暗い店内に鮮やかな存在感を放つ。
胸肉ってこんなにパサつかず、噛むことで「おぉ…」とうなってしまうものかという一品。細く切られた皮の香ばしさが、あっさりと過剰なエキスを出さない、上品でクセなんてまったくない旨みに融和し、これを膨張させてくれる。
ここに、クリームソースが重なるのだが、これが1+1+7的に大きすぎるパーツではなく、1+1+1.2的に、素材の味を引き出し、素材との一体感を重視した作りになっていながら、旨さの塊にもなっている。もちろん、太くしっかりと濃いインゲンとの相性も抜群。
そして…いよいよ、お楽しみのカキフライの登場。
・廣田式 カキフライ
初めて実物を見た、ゲストのお二方の顔には、「おぉ!」という表情。直径10センチのボール型カキフライを、取り皿に移すべく箸で持ち上げると、伝わりしものはずっしりとした重量感。厚い衣を箸で開くと、そこにはぎっしりぎっちりと牡蠣が詰まっている。
行き場なく、これでもかと詰まった牡蠣は、熱で一体となり所々で牡蠣同士がくっついてクリーム状になっている。
そして、これだけの牡蠣の塊を包み込む衣なので、薄く軽快なというものではなく、しっかりと逞しく食べ応えのある衣になっている。
しかも、この裏の主役は、表の主役の香りや旨みを存分に吸っているので、特有の磯の香りがプンプンと気持ちいいぐらいに、口中に広がってくれる。
衣の次には、贅沢にぎっしりと詰まった牡蠣の味が、あれやこれやと縦横無尽に飛び交って、圧倒的な印象とほのかなホロ苦さを残して、胃袋の中へと収まっていく。
あぁ、たまらない。とにかく、たまらない。中毒性のあるこの味がたまらない。
実は、一人一個だったのだが、無理言って追加で一つだけ作ってもらうと、4人の箸が素早く伸びて、あっという間にお皿はカラッポに。正直、あと3個はイケた。でも、余韻の深さもたまらない。
・昔風 和牛ビーフシチュー
これがまた、とにかくやわらかくてやわらかくて…目が覚めるぐらいに密度あるソースが舌に触れてスイッチが入ると、お肉のやわらかさと共に、宿るエキスの旨味がいやらしいぐらいに広がる。
自分以外の3人は、白ワイン→赤ワインという組み合わせにて、料理を楽しんでいるので、至極判りやすく旨いっていう顔をしている。自分だって飲めるのなら、こんな味の料理と一緒にワインを口にしてみたい。そんな、イメージが膨らむ味。
とはいえ、飲めない自分も含めて、感嘆したのはつけ合わせの大根。「何をここまで染みこませたのか?おでん屋さんの大根なんて目じゃない」というぐらいに、歯を動かしただけでじゅわっと旨い汁が溢れてくる。
とにかく、ニンジンを含めて野菜の旨さに笑ってしまった。
・廣田賄いカレーと、カブと青葱の味噌汁
茶碗に入ってくるから賄いなのか、それとも紅ショウガが添えられているところが賄いらしさなのか。でも、味は正真正銘の非賄い味。スパイスが歌謡ショーのように、オレがオレがと出てくるのではなく、旨いダシに刺激を与えるポジショニング。
この土台を作る柔らかく煮込まれた牛肉に、大きく切られたマッシュルームの弾力が気持ちいい。
味噌汁は、一言で言うと名古屋的な味。この味噌の味が自分には好きで好きな味なのに加えて、三つ葉の爽快感がたまらない。
そして、このお店の隠れた名物である食後のコーヒー。
元々、大井町の隠れ家だったお店が、この2号店を開いた際にやってきた一人の若い方。この方が、えらく厳しい修行先で宿した技術によって、香りを奏でるようにマラウィの豆を挽く。
飲めない自分にとって、このコーヒーが一番のご馳走な液体となる。
正直、このお店で食べるときはいつも緊張する。
一つ一つの料理に宿る味の理由が判らず、その現実を受け止められない自分が出てきたら、自己嫌悪になってしまうからだ。でも、食べている時には緊張感の何倍もの楽しさを実感することができる。ここは、自分にとってそんなお店である。
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