岩手県盛岡市/六本木・ヌッフデュパプ 食材の楽園、ビールの宴。そして、人の縁。
今から約半年前、
とあるきっかけで訪れたのが、岩手県。
こちらの方にご案内いただいて、
食や山林の資源を色々なカタチで、
伝承したり活用する方に学ばせてもらった日の夜。
夕食の場所として案内されたのは、とあるビルの4階。
三大麺だったり以前に訪れた食堂のイメージが強い自分には、
案内板を見た瞬間、「?」な印象を持ったのが正直なところ。
でも、今思えばここじゃなければならない理由があったのです。
エレベーターを降りて目の前に広がっていたのは、
およそビルの雰囲気からは想像しえなかった、
洗練されたフロア。
大画面のスクリーンが設置されたテーブル席と、
それを背にするように配置されたカウンター席の組み合わせ。
最初は、どことなくフランチャイズのお店っぽさを感じたものの、
それを否定したのは、お店側の演出だけによる賑わいではなく、
訪れるお客さんの声や笑顔で生まれる賑わい。
路面店ではなく、ビル内のクローズドな性格だからこそ、
ここだけで一つの世界ができ上がっていたのです。
メニューには、岩手の食材を使ったフードや、
岩手の地ビール・ベアレン、あるいは豊富なワインがラインナップ。
選ぶ楽しみと、それに応えてくれるキャッチボールが、
もう、楽しくてたまらないんだろうなぁ…と、期待は膨らむばかりです。
ということで、早速ベアレンで乾杯!
で、野菜気分だったのでまずはアスパラから。
鮮度が落ちやすい野菜ゆえ、
青濃い香りが広がる一口目の印象で、
鮮度管理がしっかりとしていることを教えてくれます。
たかきび粉が配合されたニョッキ、
モチモチなだけでなく歯切れのいい食感が、
心地よいアクセントになっています。
山菜のジュレ添え。
シャキシャキの食感、動物系なジュレとの融合。
自分にとっては伝承料理を食べることで接する機会が多い山菜が、
この形で目の前に出されたことに驚きを隠せず、
「ワインとの相性がいいんだろうなぁ…」と思いつつ、
まだグラスに残るベアレンと一緒に堪能。
そして、南部地粉を使ったトルテッリは、
野菜のミネストラのソース。
プニプニのパスタの中には、たっぷりの豚肉。
お肉の旨みが馴染んだ生地を野菜のやさしい味が包み込み、
食材の個性が引き出された傑作。
空豆はシンプルに、
でも、シンプルだからこその美味しさが、
こういうお店ではすごく大事なこと。
そして、岩手に来たからには、
やっぱり欠かせない短角牛。
100回噛んでも、赤身のエキスがしっかり溢れる美味しさが、
「たまらない!」の一言しか言わせません。
食材の力を素直な形で、
あるいは相性のいい調理方法で的確に。
エゴっぽく魅力をプレゼンテーションすることなく、
ベストな形で伝えてくれるお店、衝撃的でした。
「こういうお店が、東京にあればなぁ…」と、
半年間思っていたところに届いたのは一通の封筒。
オレンジ色の手紙の正体は、
六本木に出店するというインビテーションでした。
となれば、足を運ばない理由はありません。
六本木通りから出雲大社の東京分祀がある路地に入ると、
オープンを祝う胡蝶蘭が窓越しに伺えるビルの姿。
ここの2階がヌッフの六本木店。
封筒と同じくオレンジを基調とした店内は、
盛岡と比べてややシンプルな装飾なのに、
鮮やかな印象を与えてくれます。
でも、入口横にあるお肉の姿を見ると、
このお店の岩手食材に対する愛を、
再確認させてくれます。
プレオープンということで料理の種類は少なかったものの、
お試し的なコースがあったので、それを注文することに。
グリーンとブラック。2種類のオリーブをつまみながら、
スパークリングワインを少しずつ。
店内に響くのは、開店を祝う声と笑い声。
盛岡の空間がそのまま来たかのようです。
パン皿のココットには、麦香豚のリエット。
かなりのボリュームにつき、バゲットに乗せるだけではなく、
単品のおつまみとして楽しませていただきました。
オードブルは、三陸・宮古の鯖を使ったカルパッチョ、
八幡平サーモンのマリネと金のモッツァレラ、
そしてホロホロ鳥とフォアグラのパテ。
バジルペーストで美味しさが膨らんだ鯖の脂、
サーモンの張りのある食感とモッツアレラのすっきりしたコク、
そしてホロホロ鳥とフォアグラの重厚な旨み。
上戸の方にとっては、これでアルコールが進まない理由はありません。
魚料理は、宮古のタラを使った白子のフラン。
皮がパリッと焼かれたタラの身から順々に食べ進む。
その香りを受け継いだまま、フランの生地にスプーンを入れると、
フルフルと心地よい弾力。
そして、アサリの旨みと白子のコクが効いたやさしい味。
肉料理は、ホロホロ鳥の胸肉ローストに白金豚の炭火焼き、
そして、6月以来の短角牛。
特に、短角牛の赤身エキスの美味しさは、
噛めば噛むほどに広がって、
脂の旨みには生み出せない余韻が、
赤身派の自分にとって至福の時間となります。
デザートのガトーショコラ、
ソースに見える小さな物体はきび団子。
フロマージュブランと、岩手の農園で育まれたイチゴが添えられたお皿には、
シンプルな中に岩手が詰まっています。
このお店を盛岡で、そして六本木で開店したのは、
今は無き、有楽町・西武百貨店のお酒売り場にいらっしゃった伊東さん。
売り場で巡りあった岩手のお酒に導かれて移り住み、
出会ってきた食材やお酒の魅力を、ヌッフデュパプという空間を通じて、
発信し続けています。
東京店ができるきっかけになったのは、3.11。
未曾有の震災から復興する岩手の姿は、
このお店をフィルターに東京に広まっていくに違いありません。
そんなお店のグランドオープンは、来年の1月11日。
豊富になったメニューを通じて四季折々の食材を味わえる日が、
今から楽しみです!