4月まで住んでいた相模大野という街は、
いくつかのお店は自分のツボにハマったものの、
街特有の文化が駅前再開発で壊されてしまい、
正直なところ、単に利便性しかない街だった。
で、そんな街がちょっと退屈に感じてきたこともあって、
引っ越しをすることに。
毎日の生活が楽しく、街特有の文化があることを重視して
物件を探したところ、西武池袋線沿線にピタッとハマる物件を発見。
この数日間で引っ越し作業が一段落したところで、
沿線界隈を自転車で散歩しつつ向かったのが
このうどん屋さん。
店内に入ると、香川生まれのおかみさんが笑顔で出迎えてくれ、
座る席に迷っていると、ちょっとだけ威勢よく案内してくれた。
メニューを見ると、かなり豊富なうどんのバリエーションゆえ迷ってしまった。
一番人気らしいカレーうどんや、カレーうどんにごはんがついたセット、
あるいは、お店の冠を付したうたた寝セットなんていうものもある。
ただ、自転車で火照った身体で温かいうどんを食べたら、
ちょっと汗で身体が冷えるかもと思い、
かしわ天ぶっかけうどんを注文。
「この時間帯は、おでんを一品サービスで提供してま〜す。」
という声に誘われて、鍋からおでんを選ぶ。
香川県では、うどん屋さんにおでんは付き物。
ということで、串に刺さった大根に目を奪われつつ、
玉子に手が伸びる寸前に、牛すじにしようと心変わりする。
そんなことをしているうちに、
注文したかしわ天ぶっかけうどんが目の前に。
大きな器に麺が入り、その上にどっさりと
かしわ天とにんじんの天麩羅の姿。
そこに、讃岐富士のごとくの大根おろしがセンターに盛られ、
ネギにかつおぶし、そしてレモンが添えられている。
ぶっかけ出汁を注いで、ちょっと混ぜたら最初の一口。
引っ掛かりのない滑らかな口当たり、
歯で噛みきろうとするときの弾力、
そして、箸越しに感じるハリ。
このうどんには、一本一本にいい要素が練り込まれている。
大根おろしを絡めると、水分で出汁が薄まってしまうお店もあるが、
うどんを混ぜ合わせると、むしろ丁度いい具合に味のポジションが定まる。
だからなのだが、うどんをすする手と口が止まらない。
かしわ天も食べたいものの、まずはうどんだけを食べている自分がいる。
ようやく手が止まり、今度はかしわ天を一口。
サクッとした衣には青のりが混ざり、
なんとなくふわっと香る磯の香りに、
丁寧に下ごしらえされた鶏肉の美味しさが重なる。
困った、これも止まらない。
もちろん、ニンジンの天麩羅も旨い。
更に、しっかり煮込まれ、つゆの味がこれでもかと染み込んだ、
牛すじに手を伸ばすと、その美味しさに心から感謝したくなる。
味噌ダレをつけるのを忘れていたことを、忘れてしまうほどに、
その味加減が自分の好きな加減だった。
そして、再びうどんに戻って残りを一気にすすったり、
締めのかしわ天を食べたり、レモンが甘かったことに驚いたり。
衝動と美味しさで一気に食べてしまったので、
おかみさんから「もっとゆっくり食べればいいのに…」
と声をかけられてしまったが、その顔は笑顔だった。
やっぱり、街を作るのはお店の人柄なんだと改めて思いつつ、
引っ越し先としてこの沿線を選んだことに、
間違いがなかったことが、何よりうれしかった。
石神井公園・うたた寝 かしわ天ぶっかけうどん(830円)
