西荻窪・ひで ここだけの話
ある日、友人が偶然足を運んだお店には、必然のように酒と肴が並び、
出会いの喜びを物語る、日本酒としめ鯖が写った一枚の写真が生まれました。
決定的な写真を見た翌日の晩、西荻餃子のある小さな通り、
ラーメン屋さんのビルの二階に向かう階段を上っていました。
やや重たいドアの先には、
大きな黒板メニューとカウンター席。
そして3つのテーブル席は、既に賑わいに包まれてました。
柔らかく出汁が染み込んだ
お通しのつみれとビールを口にしながら、
黒板メニューから肴を探すことにしましょう。
それにしても迷います。
産地と共に並ぶ魚はお刺身だけではなく、焼き魚や天ぷらまで。
そこに、チーズの梅ソースといったアテ系に、
筑前煮のようなコトコト手仕事系まで。
豊富な鍋のラインナップも見逃せません。
自分でコースを組みながらお酒を選ぶ。
そんな居酒屋の醍醐味が黒板に記されています。
まずは、お刺身の三点盛りから。
神奈川のイサキに高知のブリ、
そしてこのお店に誘ったしめ鯖。
炙りも選べたので、こちらにしてみました。
トロトロの脂が柔らかく溢れ出し、
酢加減絶妙な締めサバの技に、
最初は無言、それから少しずつ唸ります。
イサキの引き締まった弾力と甘さに、包容力のあるブリの脂。
単に種類を並べるのではなく、これぞ三種盛り。
理想的なバランスです。
同じタイミングで頼んだつくね。
俵型の逞しい姿を箸で割り、卵とたれに絡めて食べれば、
肉の旨みと食感の突き押しが止まりません。
肴と共にビールが進み、日本酒に切り替えることに。
まずは、田酒…といきたかったのですが、生憎の売り切れ。
ということで豊盃から。
引き締まった甘さに「こんなに美味しかったっけ?」と感じたのは、
口にするのが久しぶりなせいもありますが、
何より、肴の旨さが高めてくれるから。
で、そこに野菜の天ぷらを合わせました。
サクサクの衣に閉じ込められた自然の恵み、
季節に育まれた一つ一つの野菜が、
身体を浄化してくれるかのようです。
ここで、「貴」を経由して梅酒に切り替え。
心地良さはほぼ最大、笑いながら「旨いなぁ」のつぶやきが止まらない時間帯です。
締めの一品はクリーミーちゃんこ鍋。
ピリ辛と味噌の二択から後者を選びました。
蓋を開けばグツグツと煮え立つミクロの泡。
油揚げや肉団子にたっぷりの野菜。
美味しさがしみ込んだところでいただきます。
…とにかく、このスープが旨いんです。
だから、スープの旨さが染み渡る具が旨いんです。
普段、締めにごはんかうどんを入れない限り、
鍋つゆは残ってしまうのですが、
ラーメンのごとくに完つゆしてしまいました。
次はピリ辛を食べたいと思いつつ、
このグビグビ感をもう一度味わいたい。
人間なんてそんなもんです(笑)。
こういうお店のことを誰かに伝えることが、
「ここだけの話なんだけどね…」というものなんでしょう。
自分も、そんな感じの縁でめぐり合った美味しさは、
「ここだけの話」として残したいものです。