今から数時間前のこと。隠岐の島に向かうフェリー乗り場のトランジットで立ち寄った鳥取県米子市。ポケモン特区やすなば珈琲はありませんが、ここは山陰地方有数の商業地域。町の扇の要に位置する、ビルディングスタイルの駅舎は迫力があるものです。
その1階に入っているのがこのお店。そば・うどん・駅弁と、駅に欠かせない3つの単語を網羅していますが、ここは山陰線が開通とともに駅弁の調製・販売を始めた『米吾』さんが経営するお店。
もちろん目玉は、店名になっている『吾左衛門鮓(ござえもんずし)』。これは、江戸時代の船子の弁当をヒントに誕生した鯖の棒寿司のこと。今では、東京都内をはじめ、多くの場所で購入できるようになりましたが、やっぱり生まれ育った場所で食べたいものです。
店内はL字型のカウンター席と、クイズ番組の回答席のような二人掛け席。早押しならぬ早く食べてさっと電車に乗るお客さんにピッタリの席だと思います。
で、このお店のメインはうどん・そばなのですが、なんと鯖寿司がついてくるんです!
選べるうどん・そばの種類は種類豊富。食券を押す指も『肉うどんでいいのだろうか…?たぬきそばがテレビで紹介されて人気だと言ってるじゃないか』と迷ってしまうものですが、関東人の自分にとっては牛肉が乗った肉うどんは、以外に食べる機会が少ない一品。一直線にボタンを押して食券を渡します。
ところで、このお店の閉店時間は18:30なのですが、ラストオーダーはその15分前。ラストスパートめがけて店内に足を運ぶお客さんの多いこと多いこと。ギリギリ間に合った方には「すぐに作りますからね」というやさしい言葉がかけられます。
さぁ、やってきました。肉うどんと鯖寿司のセット。こんな素敵な組み合わせ駅じゃないと楽しめません!
甘めでコク深いうどんのおつゆを飲みながら、うどんを口に運べば、なめらかな食感に口が満たされ、まるで雲が少しずつ空に湧いてくるかのよう。さぬきのようなハリコシたくましいというよりも、口先でしなかやかに踊ってくれるこの感覚がたまりません。
そして牛肉煮を口に含めば、香りが鼻にたどり着く間にじんわり溢れてくる甘みと旨味。豚肉でなく鶏肉でもなく、やっぱりこの風味がたまらないなぁ…と。
そして、鯖の棒寿司。断面キリッと、厚めの昆布にぐるっと巻かれた寿司が二切れ。
手でつまんでも崩れる気配を感じさせない一体感。口に運べば昆布の歯切れの良さに驚き、肉厚の鯖の身にたっぷり詰まった脂が口の中でしっとりとろけて、磯の香りと酢の爽快感に包まれた力強い余韻を残していきます。
魚を食べるためにご飯があるという関係ではなく、三位一体のバランスが優れた一品。正直なところ二切れじゃ足りません…!
ところで、食べる前に料理の撮影をしていると背中に届いたのが、「あら、カメラマンさんですか?」という声。ちょっと恥ずかしさを感じつつ、お話をしていると、なんと隠岐の島・島前にある西ノ島に5年間お住まいだったという方でした。
今では米子の生活が一番長いというご婦人との出会い。そんなことも米子らしさかもしれません。
夕方、次々と到着するカラフルな車両。そこから降りてくる方々の顔を見ていると、やっぱり地方のターミナル駅っていいなぁ…と、改めて感じたのでした。