神楽坂・キイトス茶房 山積みの本と薫り高きコーヒー、そして青春焼きそば丼。
神楽坂界隈への最寄り駅は、東京メトロ東西線の神楽坂、JR・東京メトロ有楽町線の飯田橋、そして都営大江戸線の牛込神楽坂の3つ。
で、今回の舞台は牛込神楽坂のほど近く、「天つゆ」という天麩羅屋さんが目印の交差点にある雑居ビル。ここの2Fに一軒の喫茶店がある。店頭にはフードメニューが記された看板と、遠慮がちな「キイトス茶房」という屋号が刻まれた看板。
実は、とあるきっかけでこのお店を知り訪問したのだが、いざ目の当たりにしたのが、こんな看板の対比と薄暗い入口が生み出す、摩訶不思議なシチュエーション。ゆえに、階段を上らない理由は消えてしまい、友人と一緒にコンクリートステップを一段ずつ踏みしめる。
引き戸を開いて店内に入ると、目の前にはフルオーダーと思われる機能的な木製カウンター。そこにはハードカバーや雑誌、あるいは海外の写真集といった多種多様な書籍が、インテリアとして、そして好奇心の対象として飾られていた。
大きな空間の一番隅にある円形のガラステーブルに案内され、運ばれてきたメニューに一通り目を通し、栄養オイルサーディン丼とコーヒーのセット、そして秘密のメニュー・青春焼きそば丼とコーヒーのセットを注文。
まず、友人が注文した栄養オイルサーディン丼が、お一人でこのお店を切り盛りしている、ご主人の手によって運ばれてきた。
茶房というシチュエーションに身を置き、丼と味噌汁、そして梅干しを食べるという妙。でも、これが運ばれてきた瞬間、心の中には「しめた!」という文字がサッと横切った。
オイルサーディンとネギを醤油味で炒めて、たっぷりの飯の上に乗せて、あとは刻み生姜を一置き。
シンプル、とにかく食べたくなるルックス。でも、かっ込もうとしても、これは友人のもの。ということでおすそ分けいただいたのだが、芳ばしい醤油の香りが鼻腔を抜けて、塩加減の強さをご飯が緩和させる味に、まるで絆のようなものを感じる。そして、一番おいしいポジションにあるのが、全部の味を吸い取ったネギの甘さ。これはずるい。
もう一口…とばかりに、丼も食べて梅干しも食べて、味噌汁も飲む。そんなネゴシエーションが数分間。でも、三口目ぐらいには、やんわりながらも断固として拒否される。
後ろを振り返ると、表通りの姿を上からほのかに照らすランプ。やわらかい照明は、店内のアクセントにもなっている。
そして、ぱっと見は無造作に山積みされた本。
でも、バランスを計算しないと一気に崩れてしまうのが本の山というもの。無意識に出来上がったかもしれないこの一角は、実は意識でも無意識でもないものが生み出した、センスによって出来上がっている。
色々なものを感じながらブツの登場を待ちわびていると、お待ちかねの青春焼きそば丼が運ばれてきた。
確かに、焼きそばは授業や部活の腹減り学生にとって、帰宅前にズズっと食べたくなる青春のシンボル。だから、青春カツ丼、青春親子丼、青春鉄火丼、青春カレー丼…やっぱり、青春焼きそば丼には勝てない。
大きめに切られたシイタケや豚肉など、焼きそば道としてはスタンダードな具がたっぷり、でも、その味はスタンダードから踏み外した、ケタ違いのインパクト。麺と具を別に炒めているので、そばに変な水分の重さがなく、しっかりと熱が通ったそばに、たっぷりの具が絡まって最後にぐっと辛さがくる。
そして、食べていると丼に焼きそばが入っているだけと錯覚してしまうが、実は丼の底に〆のご飯が入っている。焼きそばに染み込んだ味が湯気によってご飯に移り、ペヤングご飯なんてとんでもないぐらいの、上質焼きそばメシとなる。
すっかり満腹になったところに、薫り高いコーヒーが運ばれてきた。
ペルーシュのブランシュガーを入れる前に一口。すると、そのままでうれしくなるぐらい旨い。なので、シュガーはそのまま齧る。いや、これも旨い。でも、このままだと容器を空にしてしまうので、ベツバラデザートとして林檎入りバターケーキと、ナッツタルトを注文。
心がこもった味、懐かしい味、そしてやさしい味。しっとりしたスポンジや、ナッツのコクから強く印象に残るのは、そんな形容詞。
なんというか、不思議な空間。本に癒されコーヒーの香りに、そして充実したフードメニューに癒される。明確な理由がなくても、このお店に居つきたくなったのは、きっと、このお店に宿る心地よさが生まれる、理由を知りたいからかもしれない。
でも、一歩入るとそんなことが無粋になってしまうはず。そんなお店に会えたことがうれしくて、結局は通ってしまう。だまされてもいい罠というのは、きっとこんな感じ。
ちなみに、このお店を知ったきっかけは、こちらもある種の罠がちりばめられたこのブログ。
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