神田・味坊 羊たちで沈黙
銀座の端からタクシーで約15分、
神田の高架下にある小さなお店に到着すると、
店内は勤め終わりの方々で一杯。
鍋を囲み、ビールに囲まれ、パワフルな笑い声に包まれる。
小綺麗な居酒屋では見かけないような開放的な空間は、
神田という町の空気感を凝縮しているようです。
なんとか2人分の席を確保して、
ここに誘っていただいた方に注文をお任せ。
ドリンクは豊富に揃うビオワインの白です。
最初に運ばれて来たのは、干し豆腐の冷菜。
実は干し豆腐好きなのですが、あまりお目にかかる機会がなく、
しかも胡麻油と塩がしっかり絡んだものが多いので、
白とパクチーの緑の組み合わせは、それだけで印象的。
独特の食感は、幅広になれば更にたくましくなり、
軽めに施された味つけに乗って箸が進みます。
そして、名物の羊串。
一口頬張ってひと噛みすると、
香ばしく焼かれた表面の膜を突き破って、
溢れてきたのは圧倒的な肉汁。
その力に言葉を失ってしまいます。
鳥豚牛の三畜と比べて、いい意味で特徴的なクセがなく、
香辛料がリードする純粋な旨味が、野性的な食欲を呼び起こしてくれます。
肉自体の逞しさもあって、噛んでも噛んでも強いトーンで味が続いてくれるので、
なんとも頼もしき存在。
普段は、ジンギスカンでの接点が多い羊肉ですが、
この味に触れてしまうと、一発で虜になっちゃいます。
白菜と板春雨の炒め物。
発酵した白菜の独特の風味が、
醤系の味付けで旨味のカオスを巻き起こし、
そこに食べ応えのある春雨とが絡めば、
これはクセになる味です。
というよりご飯向け、無性に白米が恋しくなります。
このお店はオーナーが出身地である、
中国は黒龍江省の料理を、
現地の調味料をしっかり使って提供するお店。
だからなんでしょうね、
ジャパナイズされた中華料理にない逞しさを感じ、
出会う味一つ一つに新鮮な驚きを発見します。
やっぱり、日本も世界も平均的な味とされるものより、
地方で受け継がれる味のほうが面白く逞しいものです。