夕方4時ぐらいの時間に、このお店のカウンター席で飲んでいるお客さんは、
たいてい自分と同じく、県外から来たお客さんということが多い。
居酒屋本で紹介された記事を見て、このお店の暖簾をくぐるお客さんに、
津軽弁で弘前のことやお店の料理のことを話しながら、
お店を手伝う地元の大学生の子に、次にやるべきことをタイミングよく指示する。
このお店を手伝う子には、東京的な子はおらず、
なんというか、このお店らしい子がいつも手伝っている。
もちろん、実の娘さんという訳ではないのだが、
その様子を見ていると、笑顔で「はい、ウチの娘です。」と、
おかみさんが言っても納得してしまうと思う。
(そして、そんな時にぴったりの津軽弁が、
自分の頭の中に文字として浮かばないことが、ちょっと悲しい。)
例えば、大鰐温泉もやしを炒めたり、
つぶと凍み豆腐の煮物の味を確かめたり。
いつ訪れても、おかみさんの仕事は変わらない。
棒鱈や身欠きニシンの煮付けは、いつでもお店の顔だ。
ここに、季節ごとの海の幸、山の幸が並ぶ。
春だったらこごみの胡麻和えに寝曲がり竹の煮物、タラの芽の天麩羅、
夏だったらミョウガの味噌田楽、
秋だったらキノコの料理、
冬だったら真鱈のじゃっぱ汁。
年に2回ぐらいしか作らない「けの汁」に
出くわしたらそれはもう幸せもの。
桜まつりの時期に来ると、
おかみさんはいつもガサエビを用意して待っていてくれる。
弘前の花見に欠かせないのはこれとトゲクリガニだ。
お店が忙しくなる夕方5時に近づくに連れて、
ホーロー製のバットに盛られる料理の数は、
一品また一品と増えていく。
そこから立ち上る湯気を見ていると、
つい、待ってましたとばかりに注文してしまう。
腹八分目なんて言葉はこのお店に来たら忘れてしまおう。
それから数分ぐらい経つと、いつものSさんが暖簾をくぐって、
カウンターの一番端に座る。自分が注文したものなのに、
Sさんが食べている姿を見ると、なぜだか美味しそうに見えてしまう。
無口で料理を食べる、お酒をくいっと飲む。
自分の楽しみ方を持っているから、
急いだりすることなく、いつもの時間を楽しんでいる。
ところで、しまやのおかみさんは、
かつて製菓学校に行っていたので甘いものが大好き。
この日に自分が教えてもらったのが、
弘前の老舗である開雲堂の「つともち」というお菓子。
花見の時期にしか作られないという春の味は、
大人になればなるほどうれしくなる、上品な甘さでできている。
お勘定をしてお店を後にする時、
ごちそうさまという自分の顔は赤らんでいて、目も少し赤くなっている。
それは、このお店のおかげで少しだけ飲めるようになったお酒と、
おかみさんの料理や笑顔から、ちょっとだけ離れなきゃいけない寂しさのせい。
Sさん、うらやましいです。
2011・春の弘前_その3 しまやさん。
