全国に多々ある『◯◯の町』ですが、青森でやきそばの町と言えば黒石市。市内の製麺所がうどんの製麺機で作った幅広茹で中華麺をルーツにした黒石やきそばは、昔も今も市民の生活に欠かせない味。
10年前に知ったご当地の味は観光客向けの飲食店よりも、繁華街から1〜2本入ったぐらいの道沿いや住宅街でひょっこり見かけることが多く、ほどよい商業料理感と家庭料理感が融合した結果、町に定着した食文化という存在に昇華したと言えるでしょう。
幅広麺にソースがしっかり絡んだおいしさを、久しぶりに啜りたいと思ったある日の午前。弘前駅から乗り込んだ弘南鉄道で黒石駅に降り立つ寸前、チラっと見えた「やきそば」の幟旗。
一瞬だけ視界に映った姿をヒントに店の方向に向かうと、お目当ての赤い目印を発見。交差点の角に立つ店の名前は『かどっこ』。由来がわかりやすいストレートなネーミングにいいなぁと思いつつ暖簾をくぐると、カウンター席と座敷席を切り盛りするおかみさんが絶賛炒め中でした。
クラウド感ある手書きのメニューには、焼そばと黒石焼そばの文字が別々に。ここは黒石やきそば屋さんではなく、お好み焼きも含めた鉄板屋さん。そんな誇りのようなものを感じます。
昼間からお好み焼きをドーンと頬張るのもいいかもなぁ…と思ったところですが、ここは初志貫徹。紫の暖簾越しに黒石焼そばを注文します。
平太麺と野菜の割合が8:2ぐらいな感じなのが一般的な黒石やきそばのビジュアル。ですが、柔らかなソースの香りと共に登場したのは、麺を覆わんばかりに盛られたキャベツ、にんじん、そして豚肉。いわば野菜炒めとの融合スタイルがこのお店の流儀。「このお店の焼そばは、野菜が多いのよ!」と、驚く自分に常連の女性客も誇らしげです。
なのでソースしっかりな味ではなく、野菜の甘さとソースの酸味やコクが融合した味。家庭で食べる焼そばのあの感覚を思い起こすおいしさには、鉄板でしっかり炒められたキャベツの瑞々しさと女性向けなやさしさが効いてます。
もちろん、野菜の分だけお腹もしっかり満たすのでエネルギー源としてもバッチリ。一皿食べ終えればごちそうさまの声がすんなり出ます。
店の横には持ち帰り用の小窓も完備。駅舎併設の生協や少し歩いたところにあるユニバースの買い物袋を自転車に入れながら、やきそばを買う姿が目に浮かびます。
店舗ごとに多様性があるやきそばですが、やっぱり共通しているのはあの啜り心地。これだけはブレてませんでした。