博多は夜の九時。
海沿いから中洲に向かう道のりは、優しく賑やかな屋台の灯りで照らされ、暖簾や透明なビニール越しにライブ感あふれる料理の香りと笑い声が届きます。そんな空間に自分も身を置きたかったのですが、ピークの時間に空席は見当たらず、繁華街の少し奥へと向かうことに。
眩い看板が集積するエリアを抜けると、見えてきたのは昭和の香りが残る横長の看板。酒一番の屋号からは昭和の気質と、いい意味での観光っ気のなさを感じます。店内に入れば厨房を囲むカウンター席はほぼ一杯。空き席に腰を下ろしてメニューを見る準備をしている時にも、木枠のガラス戸が滑る音は止みません。
キレイ以上に味のある字で書かれた料理のラインナップは、ザ・居酒屋スタンダードといったもの。全部頼んでカウンターに並べたらさぞかし壮観なんだろうなぁ…と思うこと確実です。
もちろん、それは無理な話なので刺身盛り合わせからスタート。ビールを呑みながらイカやマグロに箸を伸ばしてみたり。さっきまで見ていたプロレスの熱気が少しずつクールダウン。でも、次の料理に向かってテンションが高まっていきます。
なぜなら、それはめんたい玉子焼なのですから。ふんわり玉子焼の真ん中にたっぷりの明太子。心地よい歯ざわりの玉子焼きのうっすらと甘い味付けと、魚卵の旨味と塩加減。この組み合わせ、すごいです!! お酒のアテ適性は激辛ヒーハーなタイプのほうが高いかもしれないですが、このバランスが一番。日々作り慣れてこそたどり着ける境地のはず。
そして揚げたてのコロッケ。まんまるコロリの中には粗目に潰されたジャガイモがたっぷり詰まったホッコリ手作り系。ソース不要、熱々上等、ワシワシと食べるべし。と、お皿が申しておりました。
で、そろそろ焼とりを焼いてもらおうかというフェーズに。
眼の前のガラスケースに眠る手刺しの焼き鳥串。赤々しい内蔵と白いタマネギが一本共同体になった姿が、こんがり焼かれた姿を見てみたい!
いやぁ…しっかり焼かれた表面から、タマネギの甘い香りと肉肉しい香りがミックスされて届くんですよ! 弾力、エキス、甘さ、豚バラ、シャキシャキ、モグモグ。九州の焼き鳥で感じたい要素が全部入り。お店のトンマナから一ミリもぶれてないのが、地元向けって感じです。
そして、このお店で絶対に食べないとダメなのがカレー鍋。表の提灯にも描かれていた自慢の一品を注文します。
グツグツと沸き立つ鍋から天井に向かって真っ直ぐ伸びる、カレーをまとった白い湯気。小さな鍋なんですが、具材はたっぷり。豚肉、タマネギ、ネギ、かまぼこ、白滝、白菜、春菊といった顔ぶれが、スパイシーな出汁のお風呂に混浴状態です。
野菜がたっぷりだからか、見た目よりも重くなくあっさり目の味加減なので、食べても食べても食べ飽きることがなく、具材を食べ尽くした後のスープにごはんを入れたいと思いきや、レンゲで掬って飲んでウマいという。日本酒の味を壊さず、ビールでの洗い流し甲斐があるバランスの良さがたまりません。
旅の目的が「ならでは経験」にあるのなら、もちろん屋台はそれを満たしてくれるはずですが、このお店も満たしてくれるはず。カウンターの中で忙しく動き回るおかみさんやお手伝いするママさんたちに、オススメを聞いたりするやり取りも楽しいですよ。